トピックス2019.07

ベルコ闘争(2) 労働委員会命令から見る労働実態休みも取れず長時間労働
ベルコの働き方の現実とは?

2019/07/12
業務委託契約を濫用し、使用者としてのあらゆる法的責任を免れるベルコのビジネスモデル。その働き方の実態はどうなのか。労働委員会の命令や労組執行部の証言から報告する。

ベルコの組織体系

冠婚葬祭大手ベルコは、全従業員約7000人の一方、正社員はわずか30人程度。ベルコは、業務委託契約を多用することで、直接雇用する従業員の数を最小限にしてきた。北海道労働委員会が認定した事実と全ベルコ労働組合の証言からベルコの働き方の実態をリポートする。

ベルコの主な事業は、互助会会員の募集や冠婚葬祭の請負業務。ベルコは、全国で個人事業主や法人と代理店契約などを締結し、互助会の会員募集や葬儀などを行わせている。

ベルコの組織体系は次の通りだ。互助会会員募集に関する業務は、本社(営業本部)→各地域ブロック→支社→支部という系統、葬祭請負に関する業務は、本社(葬祭本部)→各地域ブロック→支社→各地域執行部→各葬祭会館・シティホールという系統で管理されている。

ベルコは業務委託契約を多用し、組織を支える労働者と雇用契約を決して結ぼうとしない。各支社長、各支部長、各館長とベルコの関係はそれぞれ業務委託契約だ。しかしその一方でベルコは支社、支部、従業員などと実質的に一体の組織を形成していた。

例えば、支社長は支部の管理を行うことを業務としていた。支社長は支部から毎月提出される営業報告書を踏まえ、ノルマや指示が実行されているかなどを確認していた。支社長が支部長に対してノルマ達成を厳しく指示する様子などは北海道労働委員会の命令書で詳細に認定されている。

一方、葬儀等が行われる葬祭会館・シティホールはベルコが建設したものだが、建物の管理や葬儀などの施行は業務委託を受けた館長が行っていた。館長の下には「葬祭施行部」があり、業務を行う職員は、館長ではなくベルコとの間で業務委託契約を結んでいた。

働き方の実態

全ベルコ労働組合を立ち上げた高橋委員長と豊田書記長は、支部長の下で互助会の募集業務などを行うFAと呼ばれる従業員だ。FAは支部長との間には雇用関係がある一方、ベルコとの間には形式上、雇用契約等はない。

FAの業務は、主に(1)葬儀の施行業務(2)互助会会員の募集(3)ベルコの関連会社である「みどり生命」の生命保険契約の募集─の三つだ。特に(1)の葬儀の施行業務が業務の大半を占めていた。その業務は大まかに次のような流れになる。

互助会会員が葬儀依頼をベルコに通知すると、地域の担当会館に連絡が来る。待機していたFAは担当会館から連絡を受け、遺体運搬車のある会館等へ移動し、その後、ご遺体を病院や自宅から、会館などに運搬する作業に同行する。ご遺体を安置すると遺族と葬儀内容などを打ち合わせ、区役所への手続き、葬儀祭壇の設置などの準備、通夜・告別式での立ち会いなど一連の作業を行う。1回の葬儀における労働時間は40時間程度。葬儀のための待機(宿直)も必要となるため、高橋委員長の支部では1番から7番まで待機の順番を決め、ローテーションを組んでいた。自分の担当番ではない時も、他のFAとペアを組んで、補助として葬儀施行の業務を行った。

順番が1番になり葬儀連絡を受けたFAはすぐに会館へ移動しなければならなかった。夏は30分以内、冬は45分以内に会館に到着するよう定められ、遅れた場合には、1回目は厳重注意だが、2回目は次回の葬儀施行を外されることになっていた。「電話がかかってくれば深夜でも早朝でもすぐに飛び出した。いつ呼び出されるかわからないので、お風呂にも携帯電話を持って入った」と高橋委員長は話す。自分の担当番の葬儀は平均して月5回前後入った。その間にペアの補助にも入るため、「業務の8割くらいが葬儀施行だった」と高橋委員長は話す。こうした葬祭施行と並行して、互助会会員および生命保険の募集業務を行っていた。

残業代はなく、休みも取れず

こうした体制のもとFAは働いていたが、残業代が支払われることはなく、休暇もほとんど取得できない状態だった。豊田書記長は「月2回くらいしか休めなかった」と振り返る。そんな「休日」でも、会員から電話が入れば対応した。有給休暇などもっての外という状態だった。

注目すべき点は、FAの葬祭施行の業務に関して、支部長は一切関与していなかったことだ。FAは会館・シティホールの館長の指揮下にある事務員から連絡を受け、葬祭施行部の担当者とともに施行業務に当たっていた。FAは雇用関係のない第三者である館長らから指示を受けて働いていたことになる。なぜそのようなことが可能なのか。それは北海道労働委員会が認定したように、ベルコは実質的に一体の組織を形成していたからだ。

実際、ベルコの代表者(当時)である齋藤斎氏も業界紙「FUNERAL BUSINESS」2014年12月号で次のように語っている。

「現場施行に関しても、葬儀、婚礼とも組織上は別法人として業務委託となっていますが、実質は双方とも会社の一部門という感覚でいますから、直営方式をとっているといってもほぼ間違いない」

実質的には会社の一部門として扱っていたにもかかわらず、ベルコは業務委託契約によって雇用責任を免れているのだ。

FAの賃金制度

FAの賃金体系も見ておこう。

FAの賃金は2011年の支部制導入に合わせ、基本給の賃金体系が導入されることになった。それ以前のFAの賃金体系は完全歩合給だった。完全歩合給は葬儀施行料と歩合給からなり、前者は葬儀の1施行に対し3万円を手数料として払うもの(ただし、1カ月に3件(最大9万円)までで、それ以上の件数を施行しても手数料は支給されなかった)。後者は互助会会員契約の契約件数に応じて支給されるものだった。

支部制に伴い導入された基本給15万円の内訳は、葬儀施行料3件9万円と互助会会員契約3件分6万円を合わせて算定されたものだった。基本給はその後、2014年に18万円に変更された。その内訳は葬儀施行料3件9万円と互助会会員契約6件分と生命保険契約2件分のノルマだった。

互助会会員契約でFAが受け取れる手数料は、2万円か2万5000円(支部ごとに異なる)。この額は4件目から支給された(基本給が18万円になった後は7件目から支給)。一方、その月のノルマである3件(もしくは6件)を確保できなかった場合、その不足分は「ツケ」として翌月に回された。前月に1件分の不足があれば、翌月5件獲得したとしても4件としてカウントされたと高橋委員長は説明する。

さらに、互助会会員が契約を一定の条件で途中解除した場合は、「ペケ」と呼ばれ、担当のFAは獲得件数から「ペケ」の件数が引かれることになっていた(「ペケ」になった契約が契約を復活すると「マル」と呼ばれ、獲得件数も復活した。「マル・ペケ」と呼ばれる)。

大切な仕事だからこそ

このようにベルコでは、24時間体制の葬儀施行と残業代の未払いに加え、厳しいノルマが課せられるという実態があった。高橋委員長らが労働組合を結成しようとした一つのきっかけは、生命保険契約を取れないFAを葬儀施行からはずすというベルコの方針だった。ベルコは互助会会員獲得や葬儀施行に加え生命保険契約獲得のノルマも厳しく課してきた。業務の大半を占める葬儀施行から外されればFAの収入のベースを失う。職場環境を変える必要性を会社に訴えるため、労働組合の結成に動いた。

その後、ベルコは高橋委員長らが所属していた支部を閉鎖。新支部への移行に際して、高橋委員長と豊田書記長だけを採用しなかった。北海道労働委員会はこの経緯も詳細に認定している。

高橋委員長は「葬儀の仕事は人の最期を見送る大切な仕事。やりがいを持って働いてきた。だからこそ、労働環境を改善してほしいと願ってきた」と訴える。

葬儀という人生の大切なイベントが、このような過酷な労働の上に成り立っている。サービスを利用する側からしても、その現状を見過ごしていいのかが問われるはずだ。

ベルコに働き方の改善を求める全ベルコ労組の高橋委員長
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