常見陽平のはたらく道2019.07

未来の働き方のためにも働きやすい服装を考えよう

2019/07/12
働きやすい服装とは何だろうか。それを考え、提起していくことも労働者の権利だ。

「働きやすい服装」について考えてみよう。あなたの仕事中の服装は、働きやすいだろうか。

仕事と服装の話は、入社前から始まる。毎年、画一的なリクルートスーツへの批判が集まる。ここ数年、「パンテーン」で有名な大手企業は仕事と髪型の関係についての問題提起を行い、注目を集めている。

思えば、私は派手な就活生だった。ゼミの先輩や先生からのお下がりのスーツ、ジャケット、ネクタイを活用し、就活をしていた。とにかく、私服でなければ何でも良いと思っていたのだ。グレーの縦ストライプのスーツで、ブルックスブラザーズの柄物のネクタイで企業訪問した際には、「君のファッションのコンセプトは何なの?」と聞かれた。確かに、普通のリクルートスーツではなかったが、質問されて戸惑った。今、思うと世間知らずも甚だしかったのだが。

自分が玩具メーカーで採用担当をしていた際には、「就活は自由な格好で」と学生に呼び掛けていた。役員面接にライダースジャケットで来る学生もいた。なんでも、その学生はリクルートスーツを着て出掛けようとしたところ、お母さまから「お前らしくない」と言われ、いつもの服装に着替え、新幹線に飛び乗ってやってきた。無事内定が出た。

ただ、学生たちも戸惑っていた。就活関連のネット掲示板をのぞくと「本当に私服でいいのか?」などと激論が交わされていた。「先日の説明会は、スーツが7割でした!」など現地報告をする者もいた。中には、カタそうな企業を受けた後、こちらの面接に来るとのことで、着替えを用意していた者もいた。胸が痛み、そこまでする必要はないと採用担当者ブログで呼び掛けた。自由の難しさを感じた。

仕事と服装の問題は、大きなムーブメントになっている。最近では、ハイヒール着用について賛否を問う「#KuToo」が話題となっている。たしかに、ハイヒールは歩きづらいだけでなく、最悪の場合、足が変形するなどの健康上の害だってある。マナーという名の強要だ。

最近では大手企業でもカジュアルな服装を促す動きがある。三井住友銀行は、夏季期間に限定して、Tシャツとジーンズでの出勤を認めた。パナソニックでもデニム出勤が解禁された。

もっとも、「#KuToo」が問題提起するような、体に害を及ぼすような服装の強要は問題だが、いざ自由にしろと言われても、モヤモヤすることだろう。散々批判されてきたリクルートスーツも、むしろ楽だと支持する若者だっている。服装を自由にしただけで、良い仕事ができるとは限らない。

仕事と服装の問題は単に自由な服装論争ではない。労働者として、働きやすい服装とは何かという原点を大切にしたい。例えば、ユニフォームが安全か、働きやすいか、誇りを持てるようなデザインなのかなども論点としたい。自社の社員としてあるべき服装は何かを労働者の視点から提案したい。

「ダサい」という批判がありつつも、クールビズ、スーパークールビズもすっかり定着した。未来の働き方をつくるためにも、働きやすい服装の議論を深めよう。これも労働者の権利だ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
常見陽平のはたらく道
特集
トピックス
巻頭言
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー