常見陽平のはたらく道2019.10

会社員は何を学ぶべきか
物の見え方が変わる学びを

2019/10/15
就業人生が長期化する中で、働きながらの学びが大切になっている。私たちは何を勉強すればいいのだろうか。

私は「意識高い系」という言葉を広めた人ということになっている。意識が高く、行動力があるのだが、ポイントがズレていて、空回りしていて、自己顕示欲だけ高くて、成果の出せない人のことを指す。

起業家やNPO代表から「常見は意識高い系という言葉で、若者を萎縮させた」と戦犯扱いされることがよくある。批判は真摯に受け止めるものの、私はまったく反省していない。もともとの言葉の意味は自己顕示に対して警鐘を鳴らすものだった。ブラック企業の経営者などは、この空回りした努力を見事に取り込んでいた。

意識高い系の象徴が、勉強会と読書による自分磨きだ。ただ、これまた交流や、本を読んでいる自分をアピールすることが目的化していたとしたならば、意味がない。

社会人として、取り組むべき「学び」とは何だろう?私はまず、「目の前」のことから始めることをおすすめする。

組織に所属していると、いつの間にか仕事で疲弊してしまう。時間もなくなる。しかし、ここで立ち止まって、少しだけ余裕を持ち、仕事に関連する読書をしてみてはどうだろう。業界や社会全体のことを俯瞰した本や、経営者向けの経営理論をまとめた本などを読むと、今、目の前の仕事が持つ意味を捉えなおすことができる。

ドキュメントの作成や、プレゼンテーションの方法など具体的なビジネススキルに関する勉強をしたい人もいることだろう。その意欲は否定しない。わかりやすい指南書も多数、出版されている。ただ、具体的なスキルは日々の業務の中でも磨くことができるし、最近では社内でeラーニングの仕組みが提供されている場合もある。むしろ、物の見え方が変わる学びこそするべきだろう。

「目の前のこと」は別に仕事だけではない。育児、介護など自分が直面している課題もそうである。例えば、普段、自分が利用しているコンビニや、ファストファッションなどに関連した「大量生産・廃棄モデル」に対する疑問などもそうだ。このような、身近な問題について読書してみると、普段のニュースだけではわからない問題に気付く。

なお「学び」においては、私は「YTY」の法則を提唱する。「やさしいものから、徹底的にやる」である。背伸びして難しいものに手を出すことは否定しない。ただ、消化不良になってしまうのはもったいない。新書レベルの本を徹底的に読み込み、そこから興味関心を広げていく方法をおすすめする。

よく「本を読む時間がない」と言う人がいるが、たいていは時間を確保していないだけである。その本を何時間かけて、いつまで読むのかを決めてしまうとよい。

本を手に取るという習慣自体が情報感度、知的好奇心を活性化する。書店や図書館に日常的に行くこと自体が、学びの機会になるだろう。

主に読書の話を中心に書いてきたが、ウェブで情報が無料で手に入る時代であるからこそ、読書の価値は高まっているのではないか。本は単に情報を得る手段ではない。文と向き合い、考えることが大切だ。きっと、次の瞬間、会社も社会も見え方が変わっていることだろう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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