渋谷龍一のドラゴンノート2019.12

【第3編】職場~企業と「カイシャ」・作法の違いを知っていますか~限定正社員

2019/12/12

限定正社員こそ救世主だ、と学者の威勢のよい声を聞いてびっくりしました。そんなにすんなりいかないことは、形式に惑わされずに「労働者の宿命」で考えてみればわかります。

限定正社員は、二極分化が著しい日本の雇用形態の中間型で、とりわけ非正規から見れば安定性がある正社員には違いないと即断されがちです。そう期待する気持ちはわかりますが、カイシャ側にすれば、中間型なのでこれまで通りの時間ドロボウや買いたたきをやりたいのにとてもやりにくい。

しかも、カイシャ側だけでなく、労働者から見ても、限定正社員は受容し難いものです。例えば、限定正社員のうち時間限定正社員、つまり短時間正社員はどうか。長時間労働を余儀なくされている正社員へ「お先に失礼します」と6時間勤務で帰宅するのに、賃金単価や一時金単価が同じなら、正社員の不公平感が高まります。

あるいは、7時間契約で働く非正規へ同じ言葉をかけて帰宅するのに、賃金単価や一時金単価が非正規よりはるかに高ければ、非正規の不公平感は尋常ではないでしょう。短時間正社員本人のためにはとても素晴らしくても、職場は労働基準などどこにもない「無重力状態」になります。

短時間正社員を大別すると、正社員が出産などで退職することなく一時的に避難する場合と、非正規が短時間正社員へ移行する場合があります。

前者は、帰宅後を含めどこかで時間ドロボウが継続しているでしょうし、一時的措置終了後は再開します。後者は「労働契約法」への対応で非正規が5年後に無期雇用に転換することが多いのですが、無期雇用でありさえすればよく、賃金は据え置きでも構いません。だから買いたたきは何も変わりません。

カイシャ側があえて限定正社員をはじめるのには理由があります。よく見るとやっぱり「労働者の宿命」が負わされているのです。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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