常見陽平のはたらく道2019.12

SNS活用の勘違い
自己中を超えて

2019/12/12
SNSを発信するだけのツールとして使ってはいけない。声を拾い、つながることがSNSでは必要なのだ。

「ウチもSNSを活用しなくては」

そんな言葉を聞くようになってから10年くらいたつ。いまだにこの言葉を聞くということは、SNS活用に誰もが悩んでいるということを示していないか。

先日、ユーチューバーのサポートを仕事にしている方をインタビューし、猛反省した。自分自身がユーチューブを、SNSをまったく理解していないことを思い知らされた。

テレビ番組と、ユーチューブではコミュニケーションのあり方が異なる。一言で言うと「距離」が違うのだ。据え置きのテレビとスマホでは後者の方が目に近い。物理的にも、心理的にも距離は近い。本気度がファンにはダイレクトに伝わり、人気に影響するのだという。

実はこの前提こそ、押さえるべきではないか。「女性活用」「高齢者活用」という言葉に違和感、嫌悪感を抱くのとこの問題は似ている。「SNS活用」という言葉自体、偉そうなのである。つまり、自分たちの利益のために利用してやろうという姿勢自体が間違っており、近い距離で寄り添う姿勢こそ求められるのだ。

よくある「SNSを使って発信していこう」という「SNS活用」なるものの意図自体、実はズレている。発信だけでなく、向き合うこと、つながることがSNSでは必要なのだ。

労働組合とSNSにおいて、大切にしたいのは実は「検索」である。例えば、雇用・労働に関する国や経済団体の方針が発表された際や、ブラック企業に関する問題が報道された際にツイッターでキーワード検索してみよう。さまざまな人の意見が表示されるはずだ。ニュースサイトや、著名人のコメントもそうだが、労働者がどのような意見や感想を発信しているかを確認してみよう。ここでの意見は労組として何を勝ち取るべきかの参考にもなるし、SNSで何を発信するべきかのヒントにもなる。

やや余談だが、2011年の震災後に話題になったCMといえば、エステーの「消臭力」のCMである。震災により各社がCMを自粛。そんな中、同社の宣伝部長(当時)だった鹿毛康司氏は、ツイッターで「またエステーのCMを見て、笑いたい」という被災者たちのつぶやきを発見し、これをかたちにし、少年が「消臭力」と歌うCMを発表したところ、大反響となった。

これはまさに、SNSの声を拾う機能を活用したものだ。

SNSはつながるツールでもある。誰が同じ問題意識を持っているか、誰と誰がつながっているかが可視化される。ここにも同志を増やすヒントがある。メッセンジャー機能も活用し、個別のやり取りをして問題意識を共有することもできる。

もちろん、発信も大事な機能だ。労組として何を発信するべきかを考え、勇気と責任を持って発信しよう。その際、誰に伝えたいかとイメージするとわかりやすい。

このように、SNS時代は前提として人と人とが、近い距離でつながる可能性のある時代なのである。自分たちの都合だけでSNS活用を考えてはいけない。大切なのは、小さな声を聞くことであり、近い距離で寄り添うことである。発信だけがSNSではないのだ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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