常見陽平のはたらく道2020.01-02

2020年代の働き方
まっとうな仕事をどう守るか

2020/01/17
2010年代が終わり、2020年代が始まった。キーワードは「安全・安心」「多様化」「自由・柔軟」だ。

「就職氷河期世代についてコメントをお願いします」

2019年、私に対する取材依頼で最も多かったのはこのテーマだった。私自身、当事者でもある。可能な限り丁寧に答えた。平成から令和へと元号が変わったタイミングでもあり、平成の約30年間の働き方を振り返る機会も多い1年だった。

平成同様、2010年代も終了した。何かを振り返る際に、○○時代や、○○年代などとくくると、時に物事の見方を誤ってしまったり、レッテル貼りになってしまったりすることには気を付けなくてはならない。とはいえ、時期を分けて物事を振り返ることには意味がある。

突き詰めるとキーワードは三つだ。「安全・安心」「多様化」「自由・柔軟」である。しかも、その罠に気を付けて振り返らなくてはならない。

安全な状態で、安心して働くことは労働者の当然の権利である。しかし、日本の職場はそうではないということが社会問題化した10年だった。なんといっても、電通過労自死事件のインパクトが大きかったが、他にも数々のブラック企業問題が顕在化した10年だった。「働き方改革」が叫ばれ、その中でも「長時間労働の是正」は大きなテーマとなった。ついに2019年から長時間労働に対する規制が始まったが、管理職や社員に時短を丸投げにする「時短ハラスメント」も問題となった。

セクハラ、パワハラだけでなく、マタハラなど、さまざまなハラスメントも問題となった。労働者をいかに守るかは今も、そこにある問題だ。

労働者や働き方の多様化も進みつつある。ただ、急に多様な労働者への理解が進んだわけではない。その背景には人手不足に対する対応という意図が見え隠れすることも確認しておきたい。

自由で柔軟な働き方が模索されつつある。副業・兼業、フリーランスの推進などもそうだ。ついに、高度プロフェッショナル制度も通ってしまった。ギグ・エコノミーにも注目が集まりつつある。もっとも、「自由・柔軟・多様」という美名のもと、労働者を安く使いつぶす動きはないかわれわれは注意しなくてはならない。

2020年代が始まった。今後も、これら三つのキーワードと私たちは向き合い続けなくてはならないことは言うまでもない。さらには、AIなど「機械」とどのように一緒に歩むかというのも焦点だ。

個人的な注目ポイントは「求職者の保護」である。リクナビ内定辞退率予測問題に揺れたが、信用スコアなど個人の格付けがいつの間にか行われる時代において、求職者の情報をいかに保護するかについて、今後、議論は盛り上がることだろう。

労働組合の存在もますます問われる。労働者が多様化し、新たな労働問題が浮上する中、労働者の権利を守り、建設的な提案ができる存在になり得るか否か。

昨年は連合30周年でもあり、その存在意義を問う論考や課題を指摘する記事も散見された。ただ、これだけは言える。今の労働組合は多くの問題を抱えているし、多様な労働者の複雑化した課題を代弁できているかどうかは問うべきではあるが、これほど労働組合が必要とされる時代もないだろう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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