特集2020.03

労働組合は、だから必要だ!労働組合の意義とは何か
歴史から読み解く意義と求められる変化への対応

2020/03/13
労働法や労働組合の意義とは何か。歴史からそれを読み解くとともに、変化する社会情勢にどう対応すべきかを探る。
水町 勇一郎 東京大学教授

労働組合の誕生

労働法や労働組合が誕生した背景には、市民革命と産業革命があります。

まず、フランス革命のような市民革命によって、王や封建領主、職業団体の支配が打破され、その結果、個人間の自由な契約に基づく社会秩序が構築されました。その後の産業革命では、契約自由の社会秩序の中で、資本家と労働者が自由な意思で雇用契約を結びました。しかしその結果、労働者は契約自由の建前の下、劣悪な環境下で長時間働かされることになり、不況になると大量に解雇されました。

19世紀に近づき、こうした問題が深刻化すると、労働者たちは社会に不満をぶつけ始めます。これが労働運動の始まりです。当時、労働組合は、個人の契約を阻害するものとして、罰則付きでその活動が禁止されていました。しかし、普通選挙制度が広がるようになると、議会も工場労働者の声を無視できないようになり、その結果、労働者の意見を反映する形で民法を修正した労働法がつくられ、労働組合も法的な保護を受けるようになりました。これが19世紀後半から20世紀前半にかけての大きな動きです。

労働組合の機能

労働組合は、契約自由の社会秩序の中で、労働者を実質的にサポートする権利として生まれました。労働者は、一人ひとりでは力関係の上で会社に比べ劣っています。そのため、労働組合という集団をつくることを認め、対等な立場で使用者と話し合い、労働条件の決定を促すシステムが生まれたのです。

労働基準法のように労働条件の最低限のルールを定めた法律が生まれた一方、最低基準を上回る条件を設定するには、会社や産業などの実情に合う形で設定する必要があります。その部分は、労使の話し合い「団体交渉」で決める方が産業民主主義の観点から望ましい。こうした認識が20世紀前半に広まりました。

1930年代に世界大恐慌が起きると、アメリカのニューディール政策のように、労働者を適切に保護し、生活の安定を図ることが、消費を促し経済の好循環につながるという認識が生まれました。生産性向上の成果を賃上げや社会保障の充実で労働者に還元し、それにより消費を促し、経済成長につなげる。こうしたモデルは、第二次世界大戦後も経済成長モデルとして世界の大きなトレンドになりました。

変化する状況への対応

ただ、グローバル化やサービス経済化などが進む中で、状況は変化しています。伝統的な労働組合は、同じ時間、同じ場所で働く工場労働をモデルとし、一斉に仕事を放棄するストライキを背景に闘いを展開してきました。しかし、IT化などの進展で、労働者が時間も場所もバラバラに働くようになると、伝統的な闘い方をうまく活用できないようになり、相対的な立ち位置が変化しています。

一方、欧州では、さまざまなルールをつくる際に、労働組合の役割が重要だという認識は変わっていません。企業レベルから国レベルまで、社会的に公正で、経済的にも効率的なルールをつくるために、労働組合は話し合いの当事者として重要だと認識されています。

どの国でも、市民の多くは労働者であり、経済を支えています。その人たちが安定した生活を送りながら、生産活動で付加価値を生み出すことが経済の中心であることに変わりありません。その環境をどう整備するのか。個別の契約や画一的な法規制だけでは対応しきれない、柔軟性や多様性が求められる分野では、職場の労使交渉や、経済団体と労働組合の話し合いが重要だと認識されているのです。

労働組合の役割は大きいとの認識の下、欧州ではむしろ、労働組合の力が弱くなる中で、労働組合を国の制度や政策の中にどう位置付けるべきなのかを議論するようになっています。

例えば、労働組合の組織率が低くても、労働協約を非組合員を含めて拡張適用できる労働組合の正当性の根拠を整理するとか、解雇や労働条件変更の場面で現場の労使合意を求めるとか、労働組合法制を見直し、労働組合をサポートする動きが出ています。日本の労使関係法制も、労働組合の重要性や労使交渉の重要性を認識した上で、政策として労働組合や労使関係のあり方を見直すべき時期に来ているかもしれません。労働者代表制度の導入によって、現在の過半数代表者を見直し、ルール化を図ることもその一つでしょう。

社会モデルの変化と労働法

労働法や社会保障法は、多くの国で、指揮命令を受けて働く労働者という伝統的な工場労働をモデルに設計されてきました。現在でもそれが基本ですが、IT化やプラットフォーム経済が台頭する中で、具体的な指揮命令を受けなかったり、時間や場所を裁量的に選択したりして、働く人が増えています。これまでの工場労働者を基本にした労働法や社会保障法が、社会モデルの前提ではなくなったときに、それに代わる社会的な基盤があるのかが大きな課題になります。

その方策の一つは、請負労働者を労働組合法上の労働者と認め、組合活動を通じて保護規制をつくること。諸外国でも個人請負労働者や、プラットフォームワーカーの組織化が進んでいます。

もう一つは、労働者でも自営業者でもない第三の類型の就労者を規定し、社会的保護を与えるという方法です。

共感を得ることが大切

このような方向性があるとしても、労働組合が多様化する労働者の共感を得て、運動を進めることが重要です。

労働者がお互いを競争相手だと認識し、競争に勝つために自分の労働力を安く売ると安売り競争が始まり、労働条件が切り下げられます。それを防ぐために労働者は労働組合をつくり、労働協約や法律で労働条件を維持・向上してきました。工場労働モデルが前提ではなくなり、多様な労働者が増えたとしても、働く人たちは横でつながっていることに変わりはありません。

働く人たちは消費者や市民ともつながっています。伝統的な労働組合の闘い方が相対的に機能しなくなっているのだとしたら、労働組合は別の闘い方を模索する必要があります。例えば、市民運動と連携して地元議会に議員を輩出し条例を成立させたり、消費者運動と連携してインターネットで不買運動を呼び掛けたりするなど、市民運動や消費者運動とつながることも重要でしょう。

幅広い層から共感を得られるかが今後の労働運動にとっての鍵となります。労働組合が一部の人たちだけのものではなく、社会全体のことを考えている組織だと思われることが重要です。

労働組合は、市民団体や協同組合が持たない労働三権という権利が保障された組織です。労働三権という強みを持っていることは非常に大切です。

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