特集2020.03

労働組合は、だから必要だ!労働法の改正などに労働組合が果たす役割
労働組合の存在が「改悪」の歯止めに

2020/03/13
私たちの暮らしを支える労働法。その成立や改正などで労働組合は大きな役割を果たしている。労働組合が発言できる仕組みがなければ、歯止めのない規制緩和が起きてしまう。
水野 英樹 日本労働弁護団
幹事長/弁護士

労働法の意義

労働基準法や労働契約法は、働く上での最低限のルールを定めています。労働法がない世界で働くのは、19世紀の過酷な世界に逆戻りするようなものです。

不当解雇や未払い賃金、長時間労働、ハラスメント──。こうした問題から労働者を守るルールがあるからこそ、働く人たちは最低限の生活が保障されています。労働法がなければ、労働者の働き方や生活がおかしくなってしまうだけではなく、社会そのものもおかしくなってしまいます。

また、労働法は、労働者だけではなく、使用者が公正な競争をするための基礎もつくっています。労使が労働条件の決定について対等の立場で協議できる場を確保するのも労働法の役割です(労働組合法など)。労働法は使用者も労働者も含め、社会を豊かにするために役割を発揮しています。

知られていない労働法の中身

労働法は暮らしを支えるためにとても大切な法律ですが、その中身を知らないという人も多くいます。日本労働弁護団は、ワークルール教育推進法の制定を訴えています。近年は、「ワークルール検定」の取り組みも進んでいますが、ワークルールを学校教育の中にもっと取り込んでいく必要があります。

労働法を知らない人が多いことで、使用者が労働者に無理な働かせ方をさせたり、労働者が泣き寝入りしたりする事例は後を絶ちません。労働法違反の横行は、暮らしやすい社会の発展を阻害しています。過労死等はその最たる例だと言えるでしょう。

三者構成原則の重要性

国際労働機関(ILO)は、国連機関の中で唯一、政府、使用者、労働者の代表からなる三者構成の原則をとっています。この原則は、日本にも適用されています。労働分野の法律改正などは、公労使三者構成の労働政策審議会で議論されることになっています。内閣が提出する法律は、ここを通らないと国会に提出できないルールになっています。

労働政策審議会のように三者構成原則がしっかり担保されている政府の審議会は、他にはありません。働く人たちにとっては、法律の改正などに自分たちの声を反映できる仕組みがあるということです。これは、労働者や労働組合が勝ち取ってきた成果です。このことが制度として保障されていることの意義は、極めて大きいと言えます。

悪法阻止という役割

日本では自民党政権が長かったことから、労政審は、使用者側が望む法律に対して労働者側が歯止めをかける場として機能してきました。労働者保護規制の緩和に歯止めをかけ、労働者の権利を守るために意見を反映する、「悪法阻止」の場として機能してきたというのが私のイメージです。

例えば、解雇の金銭解決制度は、時の政府がたびたび導入をもくろんできましたが、労働者側の反対で阻止してきました。いわゆる「残業代ゼロ」制度である「ホワイトカラー・エグゼンプション」も、導入を阻止。「高度プロフェッショナル制度」は導入されてしまいましたが、さまざまな議論の結果、歯止めをかけてきました。労働者派遣法も改正のつど、少しずつ緩和されてきましたが、労働者側はそれに反対し、歯止めをかけてきました。労働政策審議会で労働者側が発言できる仕組みがあったからこそできたことです。

だからこそ、自民党政権は、労働政策審議会を無視して、政権の意向だけで法律を改正したいと考え、経済財政諮問会議のような場を設け、基本方針をあらかじめ決めてしまう手法を取ってきました。最近では、フリーランス・個人請負のように、労働法の枠外で働かせようという傾向も散見されます。労働政策審議会での議論が歯止めになっているからこそ、そこでの議論の対象にならない方法で働かせたいというインセンティブが生まれていると言えます。労働法の枠内にどう取り入れていくかが今後の課題と言えます。

知識を身に付ける

三者構成原則や労働者保護を骨抜きにしようとする動きに対しては、働く人たちが知識を身に付け、団結する必要があります。労働運動の歴史を少し勉強すると、労働者は一人ひとりでは弱いから知識を身に付け、団結して行動を起こす必要があるとわかります。使用者側も日々、お金をかけて研究を積み重ねています。労働者側も知識を身に付ける必要があります。

そのためには、まず働く人たちに関心を持ってもらうことです。労働組合の日々の活動をフィードバックし、労働組合の活動が組合員の職場環境にどう影響しているのかを知ってもらう必要があります。

ただ、言うほど簡単ではありません。多くの人は自分が問題の当事者にならなければ、労働問題に関心を持ちません。そこをいかに乗り越えるのか。労働組合の活動があったからこそ救われた人の話を聞いてもらったり、労働組合の役員が職場に入って労働法や交渉・協約の意義を説明したりする活動が有効かもしれません。

労働組合のある職場では、労働協約の存在を知らない人も多くいるでしょう。しかし、その協約ができたのは先輩たちの運動があったからです。日々の労働運動が弱くなれば、協約が不利益に変更されたり、守られなくなったりして、その力が弱まってしまいます。法律もこれと同じで、労働組合が弱くなれば、労働者に不利な法律ができ、法律を運用する場面でも力を発揮できなくなってしまいます。私たちの暮らしを支える労働法を生かすために、労働組合は重要な役割を果たしています。

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