特集2020.03

労働組合は、だから必要だ!労働組合ができて会社が変わった
労使に聞く、労働組合の意義

2020/03/13
2016年に労働組合が結成された企業の労使に、労働組合の意義を聞いた。労使がそれぞれに労働組合の意義を感じていた。より良い会社にするために労働組合を活用する好事例を紹介する。

結成の経緯

企業向け基幹システムやスマートフォン向けアプリの開発などを手掛ける株式会社ミライト情報システムに2016年6月、MISユニオンが誕生した。

同社は、通信建設会社のコミューチュア(現・ミライト・テクノロジーズ)の情報システム部門が独立してできたIT企業。労働組合は、ミライト・テクノロジーズの労働組合の熱心な働き掛けもあり、約80人の組合員でスタートした。

MISユニオンの執行委員長・花嶋涼子さん(結成当時は執行委員)が、労働組合に対して抱いていた当初のイメージは、「要求ばかりする組織」「ストライキ」「あっても機能していない組織」など。あまりいいイメージはなかった。「加入届に丸を付けるか迷ったほどでした」と振り返る。

労使交渉の大きな成果

ユニオン結成当時から職場で課題になっていたのは、出向社員とそれ以外の社員との労働条件の格差。同社の社員340人のうち約100人はミライト・テクノロジーズ社からの出向社員で、出向社員はミライト・テクノロジーズの労働組合に加入している。一方、残りの社員は、主に合併した企業の社員(プロパー社員)。出向社員とプロパー社員は同じ仕事をしながらも、労働条件に格差があった。「出向社員との差は常に感じていたので、切実な課題でした」と執行委員の朝居秀介さんは話す。

ユニオンは結成後、この課題に取り組んだ。2018年の春闘では、転勤や旅費などに関する規定をミライト・テクノロジーズと同水準に見直すことに。

また、18春闘では2000円のベア、19春闘では1100円のベアを獲得。一時金も2014年は2.58カ月だったものが、19年には5カ月を超える水準にまでなった。

「ここまで成果が出るとは思いませんでした」と花嶋さん。朝居さんは、「労働組合ができて会社がどれくらい変わるか疑問でしたが、会社の協力もあり、今のところは成果が出ています。労働組合があることでこれだけ変わるんだと実感しています」と話す。

MISユニオンの組合員数は現在130人まで拡大している。

イメージが変わった

労働組合の活動に取り組んだことで、花嶋さんの労働組合に対するイメージは変化した。

「当初は、『要求ばかりする組織』というイメージでしたが、活動してみてそれが変わりました。会社側も、社員が何を考えているかを知りたいし、社員のモチベーションをどうしたら高められるかを考えています。労働組合の結成後は、経営陣とのコミュニケーションの機会が増えました。その結果、私たちも経営陣が会社をどう良くしていきたいかを知ることができました。労働組合は会社に要求を突き付けるだけかと思っていましたが、会社と社員を橋渡しして、より良い会社にしていく機能があるのだとわかりました」と花嶋さんは話す。

その上で、こう強調する。

「労働組合は、組合員のためにも会社のためにもなれる存在なのだとわかりました。そういう意味では、ユニオンがなかった頃の会社より、ユニオンのある今の会社の方が絶対にいい会社だと思えます」

経営者に聞く

一方の経営者は、労働組合の結成をどう捉えているだろうか。

ミライト情報システムの岡本充由・代表取締役社長は、「経営者が、労働組合がなぜ必要なのかという議論を積み重ねているかというと、残念ながらそうではありません」と話す。経営者が集まった際に、事業計画について話し合うことはあっても、労働組合が話題に上ることはほとんどないと話す。

その上で、と断った上で岡本社長は自身の考える労働組合の意義を次のように説明する。

「弊社のビジョンは『お客さまから「まさにこれ!(Just the thing!)」と言われる、自分、仲間、会社、そして仕事』というものです。ここを出発点に労働組合の意義を考えました」

「弊社はソフトウエアを扱う会社です。ソフトウエアの世界は、自動化が遅れています。人が書くしかありません。一人ひとりのエンジニアのソフトウエアの生産性や品質が非常に重要です。その意味で、会社として一番大切なのは人材です」

「社員には二つの側面があります。一つは、エンジニアとしてソフトウエアを開発し、企業の一員として成果を達成するという視点。もう一つは、一人の人間として成長し、仕事を通して自身の生活を実現するという視点です。後者が労働組合の視点です。良い会社になろうとすると、この両輪がうまくかみ合わなければいけません。どちらかだけだと会社組織はうまく回りません。人間としての視点で、現場の声を伝えてくれるのが労働組合の意義ではないでしょうか」

「そう考えると、かつての弊社は、前者の視点が中心でした。エンジニアのスキルを高めたり、企業としての成果達成の議論をしていましたが、社員が働き方に満足しているのか、社員の声が会社に伝わっているのかの把握は不十分でした。それが労働組合が結成されたことで、ようやく両輪が回り出したという気がしています。労使で協議しながら、出向社員との差もかなり是正しましたし、ボーナスも増やすことができました。ここ数年は、年間10%ずつ成長しています。この延長で進んでいけば、もっと良い会社になれるはずです」

二つのプロペラ

岡本社長が今後の課題だと考えているのが、ソフトウエアエンジニアの働き方改革だ。「IT分野は今後ますます成長します。ソフトウエアの付加価値の上昇に合わせて、エンジニアの労働条件を上げていきたい」と意気込む。加えて、テレワークの環境も整えている。「自社社員のテレワークはもちろん、在宅勤務を前提とした社員を採用するなど、テレワークを推進しています。その際労働時間や仕事の成果をどう評価するのかが、これからの大きな課題。今までと違う発想が求められています。労使がコミュニケーションを図りながら、施策を展開したい」と話す。

労働組合がない会社へのメッセージとしては、次のように語る。

「数年前の弊社には労働組合がありませんでした。当時、社員はさまざまな欲求不満を抱えながらも、不満を抱えるだけで前に進まない状況でした。プロペラが二つある双発の飛行機なのに、そのうち一つが止まっているような状態だった気がします。プロペラが二つ動くことで、遠くへ速く安定して飛べるようになるのではないでしょうか」

ミライト情報システムでは、労使がともに労働組合の意義を感じ、飛行機の両翼となって、会社の前進を図っている。労働組合は、会社を良くすることができる。そのことを物語る好事例と言えるだろう。

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