トピックス2020.07

「コロナ危機」の労働政策を読み解く実践から見た労働セーフティネットの課題
休業・解雇などにどう対応する?

2020/07/10
休業手当などの労働に関する仕組みをどのように活用すべきか。さまざまな支援策が打たれる中、実践的な立場から解説してもらった。
棗 一郎 弁護士
日本労働弁護団闘争本部長

──休業手当が使用者から支払われないという声が多く上がっています。

労働者が労務を提供できるのに、会社が自らの判断によって会社を休業する場合、その休み中の賃金は、「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)に基づいて全額支払われるべきです。

特に、エッセンシャルワークと呼ばれる社会生活を維持する上で必要な仕事の場合、外出自粛要請が出ていたとしても、それによって休業しなければいけないわけではありません。それでも使用者が一方的に休業する場合、それは使用者の判断による休業として休業手当を100%払うべきです。労働基準法26条に基づく6割の休業手当は最低限の保障です。

一方、それ以外の業種の場合はどうでしょうか。今回の「緊急事態宣言」に基づく要請は、命令ではなくあくまで自主的な休業の要請にとどまります。そのため、休業は使用者の判断とならざるを得ず、使用者は休業手当を支払う必要があります。法律の解釈としてはそうなりますが、抵抗を感じる使用者がいるのも事実です。労使で折り合いをつけるとすれば、6割の休業手当は最低限であり、10割から6割の間の妥結したところで支払うことになるでしょう。休業手当をまったく出さないという選択は、職場で新型コロナウイルスの感染者が出て休業せざるを得ない場合などを除いて、ほとんどないでしょう。

日本労働弁護団の新型コロナウイルスに関するQ&Aでは、会社が休みになった場合、基本的に100%の賃金を要求すべきだと解説しています。

──労基法の6割の休業手当では少なすぎるという課題も指摘されています。

確かに、現在の算出方法では、実際に受け取れる額が月収の4割程度にしかならないこともあるため、賃金がもともと高くないと生活が立ち行かなくなります。

休業手当の割合を7割や8割に引き上げるには、労働基準法を改正する必要がありますが、すぐにできるかというとなかなか難しいのが現実です。

国はそれを補うために雇用調整助成金の上限金額や助成率を引き上げています。これを活用して労働者の賃金を全額保障すべきです。

──それでも手続きが面倒などの理由で申請しない使用者もいます。

手続きをシンプルにすることがまず一つ。また、休業になった場合、労働者が雇用調整助成金を申請できる仕組みがあってもいいと思います。書類の申請や不正のチェックは事後的に行えばいい。使用者が申請しないのであれば、労働者や労働組合が申請でき、なるべく早く手元にお金が届くようにすべきでしょう。

──雇用保険法の臨時特例の一つとして、休業手当を受けることができない労働者に対する新しい給付制度の創設が決まりました(「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」)。

新型コロナウイルスの影響で使用者が休業させたにもかかわらず、休業期間中に休業手当を受け取れない中小企業労働者に、休業前賃金の80%(月額上限33万円)を支払う制度です。雇用保険の被保険者でなくても支払われます。労働者に休業手当を直接支払う仕組みは労働団体や日弁連なども提言してきました。制度の創設は評価できます。しかし使用者が雇用調整助成金も使わず、その上、労働者に休業支援金を請求させて、自分は休業手当の支払い義務を免れることは許してはならないので、使用者に対して事後的に厳しく規制することが必要です。

──これらは特例措置として実施されますが、恒久的なものにすべきでしょうか。

まずは新型コロナウイルスの事態が収束するまでは続けるべきでしょう。その上で1年単位で検証して更新するのがいいのではないでしょうか。その中で、必要なものは恒久化していくべきです。

──解雇や雇い止めの問題が顕在化してきています。

4月に休業者が急増し、前月から420万人増え、約597万人に上りました。こうした休業者が仕事に戻れず失業すると失業率が跳ね上がります。

解雇や雇い止めでまず確認しておきたいのは、使用者の経営上の理由による解雇である整理解雇は簡単にはできないということです。整理解雇は、解雇の正当性が通常の解雇よりもずっと厳格に判断されます。新型コロナウイルスの影響で一時的に客がいなくなったとか仕事が少なくなって売上が減った程度の理由では整理解雇することはできません。東日本大震災後に「便乗解雇」が横行しましたが、そうした解雇を許さないことが重要です。

整理解雇は、整理解雇4要件で正当性が判断されます。このうち解雇回避努力義務については、雇用調整助成金などさまざまな支援策が講じられているため、それらを使わないで整理解雇に踏み切っても裁判所に有効とは認められないでしょう。

整理解雇の4要件は有期契約労働者にも適用されます。

──「派遣切り」も問題です。

リーマン・ショック後に「派遣切り」が問題になり、民主党政権は登録型派遣の原則禁止をめざしましたが実現せず、安倍政権になって逆に規制緩和されてしまいました。

派遣労働者のうち登録型派遣はいまだ半分以上を占めていますが、登録型派遣は労働契約法19条の雇い止め濫用法理が適用されて雇用が維持されるかというと、現在の裁判所の判断では厳しいものがあります。

法的には、登録型派遣は原則的に禁止し、常用型派遣労働者として雇い止め法理を適用すべきです。一方、現状では登録型派遣であっても雇用調整助成金を活用するよう粘り強く交渉することが大切です。

──雇用形態間の格差も指摘されています。

正社員には休業手当が支払われるのに契約社員には支払われないような事例は、『パート・有期法』8条で禁止されています。また、在宅可能な仕事なのに契約社員だけが出勤を求められるようなことも同法で禁止されています。『パート・有期法』を積極的に活用していくことが大切です。

──さまざまな支援策が打ち出されましたが、実際の職場で使われないと意味がありません。制度を使うための仕組みの弱さも見えてきたと思います。

新型コロナウイルスに関連する休業や働き方などの協議を労働安全衛生委員会や労使委員会で行うよう義務付けてもいいと思います。

労働組合による労使協議がうまくいかない場合、労働委員会を活用することになりますが、今回は労働委員会がストップしてしまいました。本来あってはならない対応です。労使の話し合いの場を担保するために、あっせんや調整、立ち会い団交でもやれることはたくさんあります。今後に向けて対応を検証すべきです。

──今後に向けては?

日本労働弁護団として、労災や妊婦の保護のあり方など、個別の提案をしてきましたが、今後もそうした活動を続けていきます。

また、今後失業者が増えていくことを想定すれば、失業対策事業が必要になってくるかもしれません。

労働相談が急増しており、今後も増えることが懸念されます。相談にアドバイスするだけではなく、そこから労働組合をつくって交渉し、場合によっては法的対応を取るという運動をしていかなければなりません。

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