トピックス2020.11

札幌高裁で「ベルコモデル」の実態を証言
全ベルコ労働組合の闘い

2020/11/13
10月27日、札幌高裁で全ベルコ労働組合裁判の第6回期日が開かれた。組合員らが「ベルコモデル」の実態を証言。裁判闘争が一つのヤマ場を迎えた。「ベルコモデル」の問題点を社会に発信していこう。

「絶対に負けられない闘い」。連合本部が強い言葉を打ち出して、全ベルコ労働組合の闘いを全面的に支援している。個別労組の闘争に連合本部が乗り出すことは珍しい。全ベルコ労働組合の闘いは、それほど重要な闘いなのだ。

「こんなものがまかり通れば、この世は闇だ」。2020年2月の集会で、連合の神津会長はベルコの働かせ方のモデルを強く批判した。連合会長がこれほど強く批判する、「ベルコモデル」とは、一体何なのか。

ベルコモデルとは何か

ベルコは冠婚葬祭の大手。従業員は約7000人いるが、そのうち正社員はわずか35人程度しかいない。99.5%の従業員は、「業務委託契約」か「委託先代理店で雇用された労働者」だ。連合が同業他社を対象に行ったアンケート調査では、これほど組織的かつ大規模に業務委託契約を多用している企業は1社もなかった。「ベルコモデル」はそれほど特異なモデルだと言える。

ベルコの主な事業は、「互助会会員の募集」や「冠婚葬祭の請負業務」。

互助会会員募集に関する業務は、本社(営業本部)→各地域ブロック→支社→支部という系統で管理されている一方、葬祭請負に関する業務は、本社(葬祭本部)→各地域ブロック→支社→各地域執行部→各葬祭会館・シティホールという系統で管理されている。

注目すべきは、各レイヤー間の関係だ。例えば、「本社」と「支社」の関係。両者は一つの企業の中の本社・支社という関係ではなく、業務委託契約関係だ。そして、「本社」と「支部」も業務委託契約関係。「本社」と「各葬祭会館・シティホール」の関係も業務委託契約なのだ。このようにベルコは、業務委託契約を大規模に利用することで、直接雇用の労働者を最大限に減らしている。

こうして業務委託契約を濫用することのメリットは、ベルコ本社が労働法や社会保険料など、使用者としての責任を委託先に押し付け、自らはその責任を果たさなくても済むことだ。ベルコは、業務委託契約を濫用することで、労働法上の雇用責任や事業経営上のリスクと諸費用を回避する一方で、実質的には使用者として委託先労働者等を指揮命令し、その労働力を使って利益を得ている。これが神津会長が「ベルコモデル」と呼んだものだ。

労組結成から訴訟へ

全ベルコ労組を立ち上げた2人は、どのような環境で働いていたのか。2人は、ベルコの互助会の募集業務などを行う「支部」で働く、フューネラル・アドバイザー(FA)と呼ばれる従業員だった。雇用契約は「支部」(代理店)と締結し、ベルコ本体とはしていなかった。

このように2人は、形式上は「支部」に雇用され労働者であり、ベルコ本社との労働契約はなかった。ただ、実態は違った。FAの労働条件や指揮命令は、ベルコが事細かく決めていた。形式上は「支部」に雇用される労働者だったが、労働の実態を見ると2人はベルコの労働者だった。2人にとっての使用者はベルコだと言えるか。この点が裁判の争点になる。

ここで全ベルコ労働組合の闘いを振り返っておこう。

2014年12月、札幌市内の「支部」に雇用される労働者が、組合結成の準備を始めた。この動きを察知したベルコは支部長(代理店主)に組合結成を阻止するように指示。2人が翌年1月に連合北海道地域ユニオン加盟の組合結成に踏み切ると、ベルコは支部長(代理店主)との契約を解除。労組結成の主要メンバー2人だけを新しい支部に異動させずに排除した。

2人は、2015年5月に地位保全などを求めた仮処分を札幌地裁に申し立て、7月に提訴。6月には解雇取り消しなどを求め北海道労働委員会に救済を申し立てた。

札幌地裁判決の問題点

裁判の争点は、全ベルコ労組組合員ら支部(代理店)従業員にとって、ベルコが使用者と言えるかどうかだ。全ベルコ労組の組合員は、形式上はベルコと労働契約を締結していなくても、指揮命令の実態などから、ベルコが使用者であると訴えてきた。

2018年9月、札幌地裁は判決で原告の請求をすべて棄却した。札幌地裁で原告団は、FAと労働契約を締結する支部長(代理店長)は、独立した事業主ではなく「商業使用人」であると訴えた。支部長(代理店長)が商業使用人に当たるとなれば、商業使用人が締結した労働契約の効果はベルコに帰属することになり、ベルコと原告との労働契約が成立することになる、という理屈だ。しかし、札幌地裁はこの訴えを認めなかった。

この判決に対して原告団の棗一郎弁護士は、「裁判所は業務委託契約の形式を重視した判決を下した」と批判する。原告団は、ベルコの指揮命令があったことを示す膨大な資料を裁判所に提出したが、裁判所はそのほとんどを事実認定しなかった。「判決は、契約形式に関連した証拠を事実認定した。契約形式ありきの判決だ」と棗弁護士は批判する。

勝利した北海道労働委員会

一方、2019年6月、北海道労働委員会はベルコの不当労働行為を認定する命令を交付した。北海道労働委員会はベルコに対して、(1)原職相当職への復帰(2)バックペイの支払い(3)団体交渉の応諾(4)支配介入の禁止(5)謝罪文の掲示──を命じた。

北海道労働委員会は、札幌地裁が事実認定しなかった録音などの膨大な資料を詳細に分析。その上でベルコが「本社、支社、支部、FAら従業員は、実質的に一体の組織を形成していたということができる」と認定した。北海道労働委員会が、働き方の実態を分析した上で、ベルコが一体的な組織であると認定したことには大きな意味がある。

裁判は原告側が控訴、労働委員会は使用者側が再審査の申立を行い、現在に至っている。

札幌高裁での闘い

労組側は、控訴審で地裁とは異なる争点を提示した。FAの働き方に焦点を当て、その実態からベルコが使用者であることを明らかにしようとした。

10月27日の控訴審第6回期日では、全ベルコ労組の組合員ら4人がFAとして自らの働き方の実態について証言した。控訴審で証人尋問が行われることは異例。かつ、4人もの証人が採用されたことから、一審判決が見落とした事実を認定した判決が期待されている。

そのポイントとなるのが、FAの業務の8〜9割を占める葬儀施行の実態だ。

FAは、互助会会員の募集を主な業務とする「支部」に雇用された労働者だ。しかし、FAの業務の8〜9割は、主に葬儀会館などにおける葬儀施行業務。その葬儀施行業務に、FAの雇用主であるはずの支部長は一切関与していない。そうであれば、FAを指揮命令する使用者は一体誰なのか、ということになる。

証人尋問では全ベルコ労組の高橋委員長らがその実態を証言した。そこでは募集から採用、研修、業務という一連の流れの中でベルコが具体的な支配・決定をしていることなどを訴えた上で、FAにとって葬儀施行が業務の中心になっていること、そこにFAの雇用主である支部長がかかわっていないことなどを明らかにした。

「FAは労務のほとんどを葬儀施行に提供している。会館から電話がかかってくると遺体の引き取りに向かい、会館の葬祭部が作成した見積書に沿って、葬儀施行を取り仕切る。この一連の作業にFAの使用者であるはずの支部長は一切かかわっていない。これをどう見るかだ」と棗弁護士は訴える。この点は、札幌地裁では議論されなかった論点で、裁判所の判断が注目される。労組側は、業務のメインである葬儀施行の実態を見れば、ベルコが使用者であることが明らかだと訴えている。

札幌高裁、中央労働委員会での闘いは佳境を迎えている。札幌高裁の次回期日は1月19日。労働委員会の期日も12月に予定されている。

世論喚起に取り組もう

「ベルコモデル」が認められるとなれば、業務委託契約が濫用され、雇用社会そのものが危機を迎える。だからこそ、「絶対に負けられない闘い」であり、「こんなものがまかり通れば、この世は闇」なのである。

2月の集会で連合の逢見会長代行は「裁判所や労働委員会がおかしな判断を下したら、大変なことになると思わせるくらいの勢いをつくっていこう」と呼び掛けた。SNSでの拡散などで「ベルコモデル」の問題点を社会に広く発信していこう。

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