新年号 委員長対談日々の違和感を原動力に
諦めずに声を上げること
連帯が社会を変える
声を上げることを諦めない政治に対する問題意識
野田労働組合として政治活動する中で、若い世代の皆さんにどうアプローチするか日々悩んでいます。今日は、町田さんからご意見をいただき、今後の活動に反映していきたいと思います。
まず、町田さんが政治に関心を持ったきっかけを教えてください。
町田中学・高校6年間の生徒会活動で、「選挙」の面白さを知りました。選挙では、投票を通じてみんなの実現したいことが数値化されます。どんな未来を実現したいかを「見える化」するのが選挙の面白さだと思います。
東日本大震災が中学3年生の時にありました。国会では議論が紛糾。テレビでその様子を見ながら、「協力しないといけないときなのに、どうすればいいんだろう。国会に行って議論に参加したい」と思いました。それが自分の生活と国会がリンクした瞬間でした。
野田国会を見るだけではなく、議論に加わりたいと考えることがすごいですね。現在は大学院でジェンダーと政治について研究されていると伺っています。
町田女性政治家とSNSについて研究しています。女性議員はなぜバッシングされやすいのか。その課題をどう改善できるのか。そうした分析を通じて、女性が選挙に立候補しやすい環境をつくりたいと考えています。
野田新型コロナウイルスの感染拡大の中で、政治の役割があらためて見直されたと思います。現在の政治に対してどのような問題意識を持っていますか?
町田おかしいと指摘されたことが改善されなかったり、おかしいと声を上げた人が無視されたりすることが、一番の問題だと思っています。
違和感を持って声を上げても、その声が無視され続けると、「言ってもむだ」と、声を上げること自体を諦めてしまいます。最近の政治の動きをみると、そうした流れが強化されているのではないかと強く感じます。
野田国会でのやり取りなどを見ても、政府・与党は誠意を持って答えないばかりか、はぐらかしたり、うそをついたりしていますからね。私も憤りを覚えます。
町田沖縄の基地問題もそうです。沖縄の人たちは、基地反対の意思を選挙や住民投票で示し続けています。でも国は、それを聞き入れない。
声を踏みつぶす社会の先にあるのは、誰も声を上げない社会だと思います。そこに到達しかかっているのではないかと心配しています。私たちはもっと怒りを表明すべきだと思っています。
SNSでの連帯コロナで関心が高まる
野田町田さんはSNSで積極的に声を上げていますね。心ない言葉をぶつけられることもあると思います。心は折れませんか?
町田ツイッターを始めて7年くらい経ちますが、その間にツイッターの雰囲気も変わってきたと感じています。5年くらい前は、「差別はよくない」と当たり前のことを書いても、冷笑や差別を重ねてくる反応がたくさんありましたが、最近は肯定的な反応を示してくれる人が増えたように感じています。特に「コロナ」後はそうです。
野田コロナ禍で政治への関心が高まり、政治に対する違和感を多くの人が感じているのかもしれません。
町田緊急事態宣言後は、ツイッターに多くの反応がありました。ニュースなどを見ながら、政治に対する違和感を持つ人が増えたのかもしれません。
2020年5月に「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが広がった際には、アイドルの友人がリツイートしてくれたり、ハッシュタグを付けてつぶやいたりしてくれました。アイドルが政治の話をするのはまだまだ難しいのですが、あの時は歴史が動いたという感覚がありました。
野田芸能人やタレントの皆さんが政治に関して発言することをタブー視する風潮は今もありますね。
町田そういうタブーを壊したいという思いを込めて、「政治アイドル」として活動しています。ニュースキャスターや評論家だけが政治の話をするのではなく、エンターテインメントに携わる人たちも政治の話をしてもいい。アイドルという切り口で伝えられる政治もあると思っています。
日々のイライラ感が社会を変える原動力に
野田政治に向き合う上で、「日々のイライラ感」を大事にしたいとおっしゃっていますね。
町田はい。以前こういうことがありました。とある場でプレゼンテーションをした後に参加者の年配の男性から、「あなたは、容姿は女性的なのに、話すと男性的ですね」と言われました。正直、意味がわからないな、と。べつに女性でもハキハキ話す人はいますし、そう言われて、イラッとしました。
そういう時、最初はイラッとする感覚だけなんです。でも、それを心の中に留めておくと、その後、本を読んだり、SNSでいろいろな人の体験談を見聞きしたりしていると、あの時の違和感の正体はこれだったんだとわかる瞬間が訪れます。例えば、大学でミソジニー(女性嫌悪)や、ホモソーシャルという学術的な言葉を学びます。すると、その言葉が、自分の体験とかちっとはまる時があります。「あれってこういうことだったんだ」と。
そういう体験は誰でもあると思います。日常の中のイライラやモヤッとした感覚は、自分だけではなく、実はみんなも経験している。その感覚を、自分の中だけで終わらせず、横につなぐことができれば社会は変わります。日々の暮らしの中で持つ違和感が、社会を変える原動力になるのだと思います。
野田社会は変えられるというメッセージを伝える必要がありますね。町田さんは、選挙には社会を変える力があるともおっしゃっていますね。
町田選挙は自分の意思を国や自治体に直接伝える手段です。しかも有権者が一堂に介して意思を表明するタイミングはそうありません。有権者が一票を投じれば、それが数字となって国や自治体の方向性を変えていきます。自分の一票では政治は変わらないと思っている人は多いですが、その一票が積み重なると政治は変わります。諦めないで投票に行ってほしいと思います。
野田政治や選挙の面白さを若い世代の皆さんにどう伝えられるでしょうか。
町田政治を身近に感じてもらうには、政治家のお茶目な一面をアピールするのも一つの方法だと思っていた時期もありました。でも、菅首相が「パンケーキおじさん」と呼ばれたり、本質的ではないところに回収されてしまうと、それもちょっと違うなと……。
では、どうすればいいか。最近は、「おかしいと思った時におかしいと言える力が一番大事」だと思うようになりました。一人ひとりがおかしいと思うことにおかしいと言える力を持てれば、政治に対しても発言することができます。究極的には、政治に親しみを持つ必要もなくて、きちんと声を上げることができれば、社会を変えることができるのだと思います。
女性が「活躍」できないのは性差別的な社会構造があるから
野田政治とジェンダーについて伺います。政府は2020年に指導的地位に就く女性を3割にするという目標を先送りしました。こうした現状を打開するには「クオーター制」の導入も一つの方法だと考えていますが、どうお考えですか?
町田私は「クオータ制」の導入に賛成です。海外でも制度の導入後に男女比率が改善した事例が報告されています。理念法だけではなく、一定の強制力のあるルールが必要だと思います。
野田情報労連が加盟する国際産別労組のUNIでは、性別の比率が6:4の中に収まらないと会議が成立しません。
日本はジェンダーギャップ指数で先進国中最低クラス。日本は遅れています。
労働組合にも反省があり、女性の組合役員は徐々に増えていますが、「三役」と呼ばれるトップ層に女性が少ないことは事実です。今後に向けて改善していかなければいけません。
町田一般企業でも同様の傾向はありますね。一般の女性社員は増えていても、管理職や経営層に女性が少ない。背景には、根深い性別役割分業のほかに、無意識のうちに男性を選んでしまう「アンコンシャス・バイアス」があるのだと思います。「気付いたら男性ばかりになってしまった」ではなく、そこに無意識のバイアスが働いていないか、まずは意識してみてほしいと思います。
野田立憲民主党の結党大会の来賓あいさつでは、「女性活躍」が必要なのではなく、女性が差別されている社会構造を変える必要があると訴えていました。
町田女性が「活躍」できないのは、そこに性差別的な社会構造があるからです。それを解消すれば、女性は自ずと「活躍」できるようになります。そもそも、「女性活躍」というスキームも男性中心的な議会でつくられたもので、女性の当事者目線に欠けています。そうした構造を見つめ直す必要があります。
野田意思決定の場における女性の割合を増やしていく必要がありますね。
町田政治とは、課題に優先順位を付けて、解決していくことだと考えています。優先順位を付ける際、意思決定機関のバランスが偏っていては、優先順位の付け方も偏ってしまいます。だから、意思決定機関には性別や人種、年齢、学歴などさまざまな要素を持った人たちが加わる必要があります。政治が優先順位を付ける場であるからこそ、政治の場に多様な人々が参加することが何より重要だということです。
これから大切なのは冷笑ではなく連帯
野田同世代の若い人たちに向けてメッセージをいただけますか。
町田一番伝えたいのは、連帯していきましょうということです。最近、同世代でジェンダーやフェミニズムに関心を持つ人が増え、ツイッターで応援してくれる人も増えてきました。「町田さんの言っていることに首がもげるぐらいうなずいた」というメッセージをもらったこともあります。連帯してくれる人がいるのはとても心強いです。
あなたが痛みを感じているとすれば、あなたの痛みを理解し、支えてくれる人は、あなたの周囲に絶対にいます。だから、困っていること、相談したいこと、イラッとしたことがあったら、身近な人に話したり、SNSで発信したり、声を出してほしいと思います。同じ思いを抱えている人がいるとわかれば、前向きな気持になれるはずです。そうすれば、連帯の輪はきっと広がります。
一番の敵は冷笑です。冷笑ではなく、連帯できればいいと思います。
野田最後に労働組合に対するメッセージをお願いします。
町田長い就業人生をトラブルに遭わず勤め上げることは難しいと思います。トラブルを解消しようと思っても、会社と個人では大きな力の差があります。私も就職活動中にハラスメントを受けました。一人の学生が企業を相手に声を上げるのはとても難しく、勇気のいることです。そういう時に力になってくれるのが労働組合だと思います。
若い世代は、労働組合への加入率が低いと聞いていますが、長い就業人生を考えれば、何かしらトラブルに遭遇します。そういう時に連帯して支えてくれるのが、労働組合です。そういうことが若い世代にも伝わってほしいと思います。
野田連帯という言葉を強調してもらいました。連帯はまさに労働組合の原理です。コロナ禍で多くの人が、つながりの大切さに気付いたのではないかと思います。また、政治に無関心でいられないと感じた人も多いはずです。連帯が大切だという認識をもっと広げていきたいと思います。
本日はありがとうございました。