常見陽平のはたらく道2021.01-02

意識高い系キーワードと
変わらない現実

2021/01/15
世の中には「意識高い系」の言葉があふれている。ただ、上滑り感のある言葉に踊らされてはいけない。

10年近く『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「働き方事情」のページを担当している。2020年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞は「3密」だった。このような、新語・流行語が生まれ続けている一方で、「死語」になる言葉もある。どの言葉を載せ、どのように解説するか、毎年、格闘している。

雇用・労働、さらには経済、経営に関する新しいキーワード、コンセプトは生まれ続けている。特に日経などを読んでいると、SDGsにESG投資にDX、ギグ・エコノミー、ダイバーシティ、WFH(Work From Home)、パラレルキャリア、プロボノなど、新語が並ぶ。

一部は意識高い系キーワードにも見えるかもしれない。先日、SNSでバズっていたが、アジェンダ、スキーム、フェーズ、コミット、アスピレーション、アグリー、アサイン、エビデンス、プライオリティなどの意識高い系横文字を活用すると、より「言葉の意味はわからないが、なんだかとにかくすごい」風に見えてしまう。

とはいえ、この「よくわからないが、すごそう」「やらなくては、変わらなくては」と思ってしまうこと自体に、この手のコンセプトの罠と本質がある。わが国だけでなく、世界で起こっているポエム政治にも通じる部分がある。

個人的に、ここ数年、気になっているのは、企業関係者との会合で遭遇する「SDGsバッジおじさん」たちである。経団連企業の幹部などが、スーツやジャケットに社章と一緒に、SDGsのカラフルなバッジをつけている。SDGsに取り組むことは否定しない。ただ、あくまでファッションにしている。なんせ、SDGsについて語ったあとの、言っていることとやっていることが違うのがポイントだ。

これらの意識高い系キーワードは「変わらなくては」という言葉と一緒に発せられる。これからの会社や社会を構想するものなのにもかかわらず、いつの間にか、労働者に変革という名の労働強化を迫るものになってしまう。気付けばカッコつきの「ジョブ型雇用」のように、成果主義の徹底にすり替えられてしまうものだってある。理念は壮大だが、目の前にいる、過酷な労働に苦しむ者、非正規雇用者や外国人労働者など弱い立場にいる人は必ずしも救済されない。

そもそも、新しいコンセプトなるものも、以前、うまくいかなかったものの焼き直しであることもよくある。「自由で柔軟な働き方」が何度も叫ばれるが、「脱サラ」「独立」「週末起業」「フリーランス」「ノマド」など言葉は変わるが本質は変わっていない。夢や自由をちらつかされつつ、いつでも、どこでも、定額料金プランで働く人が増えていく。

私たちは幸せな労使関係を構想し続けなくてはならない。ただ、上滑り感のある言葉に踊らされて、働く人の課題が先送りになってはいけない。普遍性を装った美しい言葉による、労働環境の改悪を私たちは許してはならない。

新年がやってきた。ニューエラのワーカーのライトをブレストし、プライオリティを決めて強いアスピレーションでやりきろう。ほら、まるで説得力がない。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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