トピックス2021.05

労働安全衛生
高年齢者の労働災害を防ぐテレワークのメンタルヘルス対策
テレワークで変わるコミュニケーション
就労環境の改善もセットで展開を

2021/05/18
テレワークの普及に伴って、メンタルヘルスにどのような課題が生じるのか。企業のメンタルヘルス対策などについて数多くの講演を行うキティこうぞうさんに聞いた。
キティこうぞう 株式会社アドバンテッジリスク
マネジメント
シニアコンサルタント

テレワークの課題

テレワークの普及で、出社勤務してきた人が在宅勤務になり、今までできていたコミュニケーションができなくなることがあります。メンタルヘルスにとっては、それが一番の課題です。例えば、対面ならできていたちょっとした相談がテレワークだとできなくなる。もちろん、メールやチャットなどで相談することはできますが、リアルの場合よりタイムラグが生じます。相談したかった人にとっては、その分、不安や緊張にさらされ、ストレスを感じやすくなります。

また、テレワークで顔を突き合わせる時間が少なくなることで、今まで気付けていたような不調のサインを見落としてしまうということも起こります。例えば、表情が暗いとか、服装が乱れがちとか、遅刻が増えたとか、ミスが多くなるとか、これまで同じ職場にいれば気付けていたようなことを見落としてしまう。メンタルヘルスケアにとっては注意すべきポイントです。

一方、通信環境が不十分だったり、オンラインツールの知識が不十分だったりすることも、ストレスになります。例えば、通信環境が悪く声が途切れがちとか、機器の操作方法がわからないとか、呼び掛けても反応がないとか、そうしたことが積み重なればストレスになります。

身体の不調とこころの不調

また、作業環境自体も大きなポイントです。パソコンで作業をするための机がなかったり、家族との共用スペースしか確保できなかったりする人は、少なくありません。

例えば、パソコン用の机がなく、姿勢が悪いまま作業を続けていれば、それが腰痛や肩こりなどの原因になります。こころと体はつながっているので、身体の不調はメンタルの不調につながります。身体の不調が原因で不眠になれば、それがメンタル不調の要因になるわけです。

家庭環境もまちまちです。在宅勤務によってかえって家事や育児の負担が女性に偏るという指摘もあります。

このようにテレワークの普及に伴う環境変化によって、メンタルに不調をきたす人は実際に出てきています。

メンタルヘルスケアのポイント

では、どのような対策が求められるでしょうか。在宅勤務で注意すべきポイントは、仕事のオンとオフをうまく切り替えること。メリハリをうまくつけられないと長時間労働になる可能性があるので気を付けてほしいと思います。

また、身体の不調や運動不足は、ストレスにつながります。気分転換の方法を探したり、適度な運動をしたりすることも、メンタルヘルスケアにとって大切です。

テレワークになると、相手の姿が見えづらくなるので、問題を一人で抱え込みやすくなるということもあります。悩みを共有し、共感してもらうだけでも気持ちはすっきりするので、困ったときに相談できる場を確保することが大切です。会社なら、相談窓口をつくるなどの対応をしてもよいでしょう。

私が推奨しているのは「チェックイン」と呼ばれる手法です。ホテルのチェックインと同じ意味ですが、オンライン会議などに出席する際には、参加者全員に一言ずつ発言してもらうようにします。みんなが参加できる体制をつくることが大切です。そのことで、相手の健康状態などを把握することにもつながります。

部下との個別のコミュニケーションでは、「1on1」ミーティングを週1回程度行い、個人が困っていることを引き出すと良いでしょう。何でも相談できるグループチャットのスレッドを用意するのも一つの方法です。テレワークでは、対面の職場以上に雑談の機会をつくることも大切です。

企業は就労環境の改善を

一方、気を付けたいのが、「リモートハラスメント」です。過度に相手のプライベートに介入したり、部下を信用せずに監視するような行為をしたり、リモート飲み会を強要したり、コミュニケーションが不足しているからといって、一方的にコミュニケーションを押し付けるような行為はしてはいけません。

企業にとっては、これまでの職場環境改善と同じように、在宅勤務の作業環境をいかに改善していくかも課題です。例えば、企業が在宅勤務者の運動不足対策のために、スポーツクラブと契約するのも一つの方法です。テレワークの普及とともに企業は、在宅勤務者の就労環境の改善をセットで検討する必要があります。

テレワークが定着すると、メンタルヘルス不調からの復職に、テレワークが活用される事例も増えそうです。これまでは、本格的な職場復帰の前に、人事部付けで軽易な仕事をするケースが多くありましたが、テレワークなら所属部署の中で仕事を切り出しやすくなります。また、メンタル不調者の中には、出社は難しくても、テレワークなら仕事ができるという人もいます。テレワークは、職場復帰の際の一つの選択肢になりそうです。

労働組合としても、テレワーク時代に見合った「世話役活動」を展開していく必要があります。オンラインシステムなどを使って、どうやって組合員の声を集めていくか。アフターコロナになっても働き方が元通りになることはありません。労働組合の活動も転換点に差し掛かっていると言えます。

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