渋谷龍一のドラゴンノート2021.11

【第5編】働く・2〜「F型」で考えてみましょうか〜時間貧困

2021/11/12

メンバーシップ型雇用(MS)だと、社命でどんな異動でも転勤でも受け入れて、労働時間は長くなり、しかも長いまま。だから働き方改革が必要なんだ、という話になりがちです。しかし、そこに進む前によく考えてほしいのです。「どうしてそんな働き方が成り立つのか?」と。

「時間貧困」という言葉があります。生活の貧困を考える場合、お金の面の「経済貧困」もありますが、時間が欠乏しているという貧困もあるでしょう。例えば、共働き世帯では、経済的には余裕があっても子育ての時間、家族で過ごす時間などはとても捻出できない、という話はよく聞きます。パートナーや子どもがいない人でも、貯金が増えてばかりで何だかなあ、という話もあります。

シングルマザーは、経済的な貧困ばかりでなく、仕事も子育てもこなす一人二役だから全然時間が足りない、という時間貧困の典型例です。両方の貧困の危険度が高いシングルマザーの苦境から、共働き世帯の分業を見通すことができます。

パートナー同士の男女が経済貧困にも時間貧困にもならないための手段は、どちらも一人二役になるしかありません。パートナーにならなきゃいいじゃん、と言うつもりですか。素晴らしいアイデアです。しかし、それも一人二役の話になりますし、だいたいあなたが、お母さんになりたい、って言ったからこの話をしているのです。

男性が仕事によって経済貧困を避けるなら長時間労働になるから仕事でも家庭で時間貧困になり、女性はそれを成立させるためもっぱら家事・育児・介護を引き受けて家庭で時間貧困になります。逆に男性が仕事をせずに経済貧困になりそうなら、代わりに女性が長時間労働の仕事について時間貧困になり、男性が家事・育児・介護へ回って家庭で時間貧困になります。

でも、「日本のキホン」(第18話)を思い出してください。男女はそれぞれ一人二役になっていません。いったいどうなっているのか? この話には続きがあります。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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