特集2021.11

「労働時間」問題の現在地
働き方の変化はどう影響するのか
過労死等の防止へ
遺族は何を訴えているのか

2021/11/12
「過労死防止法」が成立した後も、過労死等は後を絶たない。対策の現状はどうなっているのか。遺族として何を訴えてきたのか。全国過労死を考える家族の会の寺西さんに話を聞いた。
寺西 笑子 全国過労死を考える家族の会
代表世話人

広がる家族の会の活動

全国過労死を考える家族の会は今年で結成30年を迎えます。

2014年に過労死防止法が成立したことで、活動の幅が大きく広がりました。

例えば、11月の「過労死等防止啓発月間」には、47都道府県・48会場で啓発シンポジウムを開催します。また、年間通して、中学・高校・大学等へ労働問題・労働条件に関する啓発授業で弁護士などと遺族の講師派遣に参加しています。昨年は、受講した高校生が過労死等を防ぐためのパンフレットを独自に作成しました。過労死防止のために自分たちに何ができるのかを考え行動してくれたことをとてもうれしく思いました。

国が推進法に基づいて設置した協議会には、政・労・使の代表のほか、遺族の代表が加わっています。遺族の声が国の政策に反映されるという画期的な出来事でした。私たちは、大切な家族を違法な労働によって奪われました。その教訓を過労死防止に生かしてほしいという思いで意見を述べています。

大綱と労災認定基準の見直し

推進法は、(1)調査研究(2)啓発(3)相談体制の整備(4)民間団体の活動支援──を四つの柱にしています。

『過労死白書』では、調査研究の結果、長時間労働と仕事量の多さが過労死等の要因として挙げられます。私たちは、調査・研究で得た知見を、具体的で実効性ある対策につなげてほしいのですが、推進法は四つの柱の枠組み以上のことができないので、労働基準法の改正のような対策にまで踏み込めないようです。過労死等が起きる要因は明らかになっているので具体的な対策につなげてほしいと強く訴えています。

今年は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の2回目の見直しがありました。

私たちは今年3月、私たち側の7人委員と一緒に大綱の改定にあたっての意見書を防止対策事務局に提出しました。

その中で、基本的な枠組みへの追加項目のほかに、今後に向けて「新たな立法措置の検討」を提起しました。

たとえば、36協定の特別条項の廃止や最低11時間の勤務間インターバルの義務化、ハラスメント防止の法制化、労働基準監督署の権限強化、教員の働き方の見直し──など16項目を視野に、改正の準備に着手すべきと要請しました。

この中には、違法な労働があった場合の刑事罰の強化も盛り込みました。現状では、過労死等が生じた場合の企業への罰則が軽すぎます。人の命を奪ったり、働けないような体にしたりすることに対する企業の社会的責任をもっと深刻に受け止めて猛省し、原因究明、再発防止、職場の改善する必要があります。

今年は、労災認定基準の見直しも行われました。私たちは、「過労死ライン」の月65時間への引き下げを訴えてきましたが、反映されませんでした。ただその一方で、認定基準には、ハラスメントや深夜労働などの負荷要因がより反映され、総合評価されるようになりました。今後の労災認定に生かされるのか、注意深く見ていきたいと考えています。

申請の高いハードル

過労死等が労災認定されるには、申請者側に立証責任があります。例えば、労働時間や職場での出来事についても、申請者が証拠を提出しないと国は適正に調査してくれません。一方で、会社が勤務実態の資料を正直に提出するかというと、そうとは限りません。多くの場合、都合の悪いことは隠したり、ごまかしたりします。職場の証言に頼ろうにも、会社との関係から協力してもらえないこともあり、申請を諦め、泣き寝入りする人が多いです。申請の相談を受けながら、「そこまでしないとだめなんですか」と言われると、次の言葉が出てきません。被害者の泣き寝入りを許すような状態でいいのかと強く思います。

テレワークの普及に対しては、仕事のオンとオフの切り替えを明確にするような規制が必要です。副業や請負の推進は、労働時間の自己責任化を進めるものとして危惧しています。

周囲を思う気持ち

過労死は職場で起きています。職場環境にかかわる事業主や経営幹部、労働組合の皆さんに、過労死防止に理解を深めるために遺族の思いをもっと共有してほしいと思います。過労死等防止の啓発シンポジウムや研修会など積極的に参加してください。労働組合の皆さんには、隠れ残業やハラスメントなどの職場の実態を浮き彫りにして会社に改善要求してほしいです。

まじめで責任感が強い人へ、仕事が集まってきます。期待されているからと、指示通りに仕事を優先してしまう人がたくさんいます。私の夫もそうでした。

でも、そんなとき、自分の働き方だけではなく、周りの人の働き方にも目を配ってほしいと思います。例えば、労働時間を過少申告したり、サービス残業をしている人は、労働者としての権利を放棄しているだけではなく、周囲の労働者の権利を侵害していることになります。一人が権利を放棄して働くことで、周りの人も自分の権利を行使しづらくなってしまいます。過労死等防止のためには、労働者の権利を行使して、周りの人も使いやすくすることや、「同僚や部下は大丈夫だろうか」「そんな働き方をしていると体を壊すよ」という周りの人を思う気持ちが大切ではないでしょうか。

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