トピックス2021.12

総選挙から参院選へ候補者選びのプロセス透明化で
女性の政治参加の促進を

2021/12/15
衆議院議員選挙の結果、女性議員の割合は低下してしまった。ジェンダー平等が叫ばれながらも女性議員が増えない現状をどう変えればいいのか。識者に聞いた。
庄司 香 学習院大学教授

後退した女性議員の割合

今回の総選挙では、森元首相の女性蔑視発言などもあり、女性の怒りが選挙結果に反映されるのではないかと国外からはみられていました。ところが、ふたを開けると、女性議員の割合は選挙前より後退。日本には選挙で男女間格差を克服する機運がないと世界に伝えることになりました。女性が社会参加しにくい国というマイナスイメージが強まってしまったのではないでしょうか。

こうした結果になった最大の要因は、候補者選びの段階にあると考えています。女性候補者が少なければ、女性議員は増えません。特に議席の多い政党が女性候補を増やす必要がありますが、自民党の女性候補者の割合は今回9.8%。野党第一党の立憲民主党も18.3%で、十分とは言えない数値でした。

「化石レベル」のプロセス

女性候補者が少ない背景には、現職優先の候補者選びがあります。どの政党も現職議員の多くは男性ですから、現職を優先すれば女性議員が増えないのは当然です。

現職優先は、日本では当たり前のように考えられていますが、世界では違います。例えば、アメリカでは、連邦議会の候補者を選ぶ予備選挙に有権者が誰でも参加できる仕組みを州法で定めるところもあります。そこまでではなくても、政党のルールとして候補者選びの予備選挙を導入している国はたくさんあります。アジアでは、韓国や台湾でも導入されています。

日本では、候補者の公募が1990年代に導入され、公認過程をオープン化するものとしてアピールされました。しかし、実際に候補者を選ぶ過程はブラックボックスのまま。日本の候補者選びは、「化石レベル」の状況にとどまっています。このことは、もっと知られた方がいいと思います。

予備選挙がもたらすメリット

候補者選びのプロセスを透明化するには、新人候補が現職に挑める制度が必要です。具体的には、一定の透明性をもった予備選挙の導入です。日本でもまずは、党員やサポーターが参加できる予備選挙制度の導入が必要ではないでしょうか。選考のルールを明確にすることで、女性や若者が参入しやすくなります。

予備選挙の導入は、有権者の政治参加を促進します。日本の有権者は、候補者選びのプロセスが不透明であることに疑問を感じていませんが、投票したいと思える候補者が選挙に出ていなければ、投票意識が高まらないのも当然です。特に選挙の2週間前に落下傘候補が決まるような状況は変えていかないといけません。

有権者が、候補者選びにかかわることで選挙への見方も変わります。例えば、アメリカの2018年の連邦議会選挙では、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏が、10期当選の現職議員に予備選挙で勝って、下院議員になりました。こうした活動に携われれば、党員やサポーターになろうとする人も増えるかもしれません。

予備選挙があれば、支持する政党を変えずに、応援したい候補者を選ぶこともできます。例えば、自民党支持者の中にも女性や若者の候補者が増えた方がいいと考える人もいるでしょう。予備選挙を通じて、自分の望む候補者を立てられる仕組みがあれば、有権者の参加意識も高まるはずです。

予備選挙は、大物議員にとっても緊張感をもたらします。一方で、現職は自分の議席を失うことを恐れて、積極的に公認過程の改革に取り組みません。そこでメディアが議論を活発化させる役割を担うことも求められています。

予備選挙の実施は政党の負担も大きいので、まずは、国政選挙から始めて、首長選挙や都道府県レベルの選挙に広げていくのがよいのではないでしょうか。

政治参加を促す仕組みづくり

女性議員を増やすためには、クオータ制の導入も必要です。衆議院議員選挙では、比例区でクオータ制を導入することが現実的な対応として考えられます。

現職有利の現状では、比例名簿の上位3人を女性にするような対応も考えられますが、少なくとも男女交互にする必要はあるでしょう。また、小選挙区で男性議員が多いことを踏まえれば、比例復活制の見直しも求められます。

アメリカでは、連邦議会より州議会の方が女性議員の比率が高いのですが、これは州議会に任期制があるからです。連続8年までとか、通算16年などの任期制限を設けている州が多くあります。任期制があると否応なく空席が生じます。そこに女性が進出するチャンスが生まれます。予備選挙も、任期制もそうですが、新たな参入を促すための仕組みを設けることは大切です。

ジェンダー平等の争点化

ジェンダー平等が選挙の争点になりづらい問題にどう対処すべきでしょうか。ジェンダー平等やマイノリティーの権利が、経済や安全保障より優先順位を低くされてしまう問題は、アメリカにもあります。この課題を乗り越えるためには、ジェンダー平等やマイノリティーの権利の課題を、すべての人にかかわる普遍的な問題として意識的に描いていく必要があります。

例えば、経済不況に直面した場面で、女性議員を増やす訴えをしても有権者になかなか受け入れられないでしょう。経済のビジョンの中に、ジェンダー平等を体現する政策をパッケージとして入れ込み、提示することが重要なのではないでしょうか。

アメリカでは、トランプ大統領の当選後、女性の政治参加が劇的に進みました。政治経験がなく、政策知識にも乏しいトランプ氏が大統領になったことで、私たちにもできると考えた女性候補者が激増したのです。アメリカでも、政治は男性が行うものという先入観が根強くあります。トランプ大統領の当選は、皮肉にも、女性をためらわせていた自信のなさを克服させる一つのきっかけになりました。

2018年の連邦議会選挙で民主党の女性議員が増えると、2年後の選挙では共和党の女性議員が増えました。政党間競争が働いた結果です。

女性議員が増えたことで、女性議員がメディアに登場する場面が増えました。このことは若い世代に大きなインパクトを与えています。女性の社会進出はさらに進んでいくでしょう。

参加のハードルを下げる

民主主義であれば、議会の構成は人口構成を反映したものになると考えるのが自然です。しかし、現状ではそうなっていません。そこには、女性やマイノリティーの人たちが直面するハードルがあるということです。それを取り除き、みんなが同じスタート地点に立てる環境をつくることがまず大切です。

女性議員が増えると、これまで光の当たらなかった課題が議会で取り上げられるようになり、アウトプットが変わっていくという効果はあります。ただ、それがないとしても、公正さという観点を踏まえれば、女性議員はもっと増えていくべきだと考えています。

女性議員を増やそうと言うと、適切な人材がいないから無理だという人もいますが、男性で適格性が問われる人物が議員になる事例は少なくありません。むしろ、参入のハードルがあるからこそ、適切な人材が政治の世界に入れていないと捉えるべきです。そのハードルを下げることで、能力や意欲のある女性や若者が政治の世界に入ってきてくれると考えるべきでしょう。

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