巻頭言 UNITE2022.12

安全保障関連3文書の改定
リスクの高まり認識を

2022/12/14

本誌1・2月号(2023年1月中旬発行)の企画で、ジャーナリストの布施祐仁氏と対談した。ロシアがウクライナに侵攻して約10カ月が経過し、戦禍は今も続いている。大国が他国の領土を武力により侵略し、それを止めることが困難という現実を見せつけられた。私にとって今年一番の衝撃を受けた出来事であることから、情報労連のシンボリックな運動として推進する「平和」を今回の対談テーマにした。次号のご一読をぜひお願いすることとし、今、政府が進めている安全保障の議論に対して、布施氏からの受け売りを交えて述べたい。

昨今の各種世論調査などでは、ロシアのウクライナ侵攻などに端を発し、国民の不安が高まり、防衛力強化を求める意識変化が見て取れる。ウクライナの事態などをみれば、至極もっともであるが、安易な同調は危険である。

政府与党は、この機会に、防衛力強化策の検討に入っている。年内にまとめるとしている安全保障関連3文書の改定に向けた議論が活発化しており、有識者会議の提言や与党協議などから、中身が明らかになってきた。大きな焦点は、「防衛費の大幅増」と「敵基地攻撃能力」である。いずれも、戦後日本が守ってきた防衛の根幹を大きく転換するものであり、疑念と懸念を抱く。

「防衛費の大幅増」については、現状(2021年度補正含め約6.1兆円)の防衛予算を5年後に対GDP比2%11兆円規模にするという。倍増の財源をどこから捻出するのか。少子高齢化で社会保障費は極めて重くなっており、今後さらに必要となる。毎年恒常的となる経費を安易な国債依存は許されるはずはなく、すでに国債残高は、1000兆円を超える世界最悪水準にもなっている。増税で賄うのか、多くの国民が納得し許容できるだろうか。

軍拡競争に陥る危険

「敵基地攻撃能力」については、敵が実際、攻撃しなくても着手したと認定できれば敵国を攻撃できるようにするという。戦後初めて明言することになり、専守防衛を範囲とする憲法9条との整合性や国際法に違反する先制攻撃にあたらないのか、着手の認定と対象など明確にできるのか、などの疑問が湧く。

布施氏によれば、台湾有事などが起これば、日本が武力攻撃を受けなくてもアメリカの戦争に加担し、ミサイル攻撃ができるようになるという。すでに2015年の安保法制の制定により、「存立危機事態」と認定すれば自衛隊の武力行使が可能になっている。「抑止力」の向上という論調にも、どちらも果てしない軍拡競争に陥り、軍事的緊張の高まりから、偶発的衝突の危険性が増し、戦争に至る可能性が大きくなるという。そうなれば、アメリカの軍事戦略上の最前線となる日本の基地が、真っ先に攻撃目標にさらされるという。その場合の避難や物資などの対策ができているのか。

現実を見据えた防衛の強化は、必要であろうが、一方で攻撃を受けるリスクが飛躍的に高まることになる。残念ながら、こうしたリスクを国民の間に共有されていないことが、一番の問題ではないのか。

防衛の大転換となる重大な論議が、与党のみの協議で決められていいはずがない。国会論戦で野党はしっかり追及してもらいたい。

安藤 京一 (あんどう きょういち) 情報労連 中央執行委員長
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