トピックス2022.12

リポート 気候変動学習会1.5度目標達成に向けた
最後のチャンス
脱化石燃料に向けたチャレンジを

2022/12/14
情報労連は11月2日、気候変動に関する学習会を開催した。学習会では、一般社団法人クライメート・インテグレートの平田仁子代表理事が「迫る気候危機に対して今求められていること」をテーマに講演した。概要を報告する。
平田 仁子 一般社団法人クライメート・
インテグレート 代表理事

気温上昇が招く危機

気候変動は急速に進んでいます。CO2の排出量は悪化の一途をたどっており、世界の平均気温は、1850年から1.1度上昇しました。経済発展のための化石燃料の燃焼が原因であることは疑いの余地がありません。

1.1度の気温上昇でも、劇的な変化は起きています。欧州はこの夏、熱波に見舞われ河川が干上がりました。グリーンランドでは異常な氷の融解が起きています。世界各地で森林火災が発生し、パキスタンでは国土の3分の1が洪水の被害を受けました。

温暖化はさらに進むと予測されています。国連環境計画(UNEP)は今年10月、今の気候変動対策では今世紀末までに世界の平均気温は産業革命前から2.8度上昇するという報告を発表しました。

2.8度の気温上昇とは、とてつもない世界です。サンゴ礁は完全に絶滅し、海の生態系が失われます。水や食料の供給リスクが高まり、世界はさらに不安定化します。災害後、復旧する前に次の災害が起こってしまうでしょう。人権の基盤である安定した居住などの環境が根こそぎ壊されてしまいます。1.1度でもこれほどの影響が出ています。持続可能な世界を望むならば、人類は2.8度の気温上昇を絶対に受け入れられません。

最後のチャレンジの時間

にもかかわらず、温室効果ガスの排出量は悪化の一途をたどっています。悪いことにパンデミックからの経済活動の再開によって排出量はリバウンドしています。

気温上昇を1.5度以内に収めるというパリ協定の目標を達成するためには、温室効果ガスの排出削減をとてつもないスピードで進めなければいけません。中でもCO2は、2030年までに50%削減し、2050年までに実質ゼロにしなければいけません。そのためには、温暖化の最大の要因である、石炭や石油といった化石燃料の利用を止めなければいけません。

今が最後のチャレンジの時だといえます。この10年間で構造転換しなければ、1.5度の目標は達成できません。そのためには、「こまめな省エネ」を積み上げてもとても足りません。既存のインフラを根本的に転換する必要があります。

これを無理だといって済ませるわけにはいきません。世界はまだ諦めていません。全世界の人口の9割を占める国々は、ネットゼロ(排出を全体としてゼロにすること)を宣言しています。日本でもゼロカーボンシティを宣言する自治体は増えています。

国際エネルギー機関(IEA)は、2035年までに電力部門全体でネットゼロにするマイルストーンを出しています。日本はこの目標に合意し、2035年までに電力部門のすべてまたは大宗を脱炭素化すると国際社会と約束しています。他方、投資機関によるお金の流れも変わり始めています。地殻変動は確かに起きています。

日本の動向

日本の動向は世界にどう評価されているでしょうか。ドイツのNGOの分析によると、日本の気候政策に関する評価は主要国65カ国中45位、石炭火力政策に関する評価は先進43カ国中最下位でした。

日本のCO2排出量の4分の1は、石炭火力です。ガス火力と合わせると排出量の4割近くが、石炭とガスを燃やす電力部門です。カーボンニュートラルのためには、排出量の多い部門の脱炭素化が最も重要です。

現状では、日本の電力は化石燃料に大きく依存しており、再生可能エネルギーへの置き換えはあまり進んでいません。ドイツは2030年に再生可能エネルギーの割合を80%、2035年にほぼ100%にする目標を掲げていますが、日本は2030年36〜38%止まりです。

一方、日本政府は火力発電をやめずに、石炭火力にアンモニアや水素を混ぜて燃焼させる「ゼロエミッション火力」を推進しています。二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術にも多額の補助金を出しています。どちらの技術も化石燃料を燃やす技術で、いつ完成するかわかりません。完成しても、再生可能エネルギーが世界で主力になる中、売れるマーケットが拡大することは期待できません。

さらに、日本政府はエネルギー不足対策として原発への回帰を進めています。原発による発電割合は現在でも6%程度に過ぎません。たとえ原発を1基新設したとしても、その発電割合が大きく変わるわけではありません。原発の新設には時間もコストもかかります。そうであれば、再生可能エネルギーに投資を振り向けた方が、効率が良いといえます。

再生可能エネルギーのコストは、急速に安くなっています。その拡大が、最も確実で、安く、安全な方法です。再生可能エネルギーには、日本の電力のすべてをまかなえるポテンシャルがあります。化石燃料の価格は高騰しており、今後さらに膨らむ恐れがあります。その点でも、再生可能エネルギーの価格優位性は高まっています。「2050年ネットゼロ」の実現のために、日本は脱化石燃料に向けて覚悟を決める必要があります。

日本に立ちはだかる壁

「2050年ネットゼロ」に向けて日本に立ちはだかる壁は、「今の仕組み・今の企業・今の仕事」を守ることを優先していることだと思います。日本は「2050年ネットゼロ」という目標を受け入れていますが、そのための大胆な変化は受け入れていません。

背景には、緊急性に対する認識が足りないことや、「こまめな省エネ」や「イノベーション」で解決できるという誤った問題への理解があるのだと思います。しかし、これまでお話ししたとおり、それだけでは間に合いません。加えて、日本の場合、「一つの企業や一個人では決められたことを変えられない」という認識も強いです。それらが、転換への強力な抵抗につながっているのではないかと考えています。

しかし、世界の流れは、脱化石燃料と再生可能エネルギー促進の方向へ、お金の流れを含めて大きく変わっています。化石燃料を使用するインフラには、すでにお金が流れないようになってきています。

それは「仕事が変わる」ことを意味します。一部の雇用は失われ、新たな雇用機会が生まれます。ここで大事なのは、変化に巻き込まれた弱い立場の人たちに悪影響が及ばないようにすることです。気候変動対策で影響を受ける地域や労働者への支援がないと転換は起きません。追い込まれてから対策するのではなく、少しでも早く対策を始めた方が影響を少なく抑えられます。

「公正な移行」と労働組合

世界では、「公正な移行」に関するプログラムがいくつも実践されています。そこで大切なのは、市民や労働者の参加です。労働組合は「公正な移行」における重要なアクターです。産業構造の転換は、国の独断では実行できません。市民や労働者の声が不可欠です。その声を反映しながら脱炭素を実現することが求められています。

若者をはじめ、これからを生きる多くの人たちが転換を求めています。大人の世代である私たちが行動しないと、将来に何をもたらすのか、想像してみてください。システムを変えるためにできることは何かを考え、皆さんとともにチャレンジしていきたいと思います。

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