「やる気」スイッチはどこに?
やる気の出し過ぎにも注意
弘兼憲史の『課長島耕作』シリーズを愛読している。島耕作の学生時代を描いた『学生島耕作 就活編』では、同級生が就活のアピールポイントを語っている。「社会では五大力(ごたいりょく)がモノを言う。ひとつは『体力』次に『忍耐力』そして社会に必要な『連帯力』さらに営業なら取引先を相手にする時の『接待力』最後に本人の『やりたい力』」だと。なるほど、うまいことを言う。最後の力は「やる気」とも変換できるだろう。
「やる気のスイッチ」について考えてみよう。どうすれば、メンバーがやる気になるか。実はスイッチを押そうとして、暗闇で壁を押しているような人が多くないか。スイッチの場所、種類を確認すべきだ。
まずはその人の分析を始めよう。何がうれしいポイントなのか。特に仕事が手段なのか、目的なのかは重要な着眼点だ。普段の会話や、面談を通じて見極めたい。仕事や職場の満足度も観察しておきたい。
やる気をアップするためのポイントは褒めることだ。ただ、褒めるタイミングや具体性が鍵となる。雑な褒め方は逆効果となる。そのためにも、相手の言動を観察しなくてはならない。承認と評価は異なる。取り組み姿勢や成果が優れていなくても、取り組んだこと自体は認めるとよい。一緒に具体的なアドバイスをすると良いが、説教っぽくならないように気を付けたい。
例えば、渾身の企画書を書き上げた人を褒める場合は、これまでと比べて内容面、デザインなどで進化した点を探し出す。企画趣旨の一貫性、相手にとってのわかりやすさなども褒めるポイントとなり得る。改善点については「もっとこうした方がいい」と伝えるのも悪くはないが、「○○面について言及した企画書を今度は読んでみたい」などと伝えると感じがいい。
サプライズ感のある褒め方も有効だ。私が新入社員の頃は、男子トイレで用を足しているときに、マネジャーたちと一緒になると、彼らは必ず褒め言葉を発した。「○○社から新規取引らしいな。マネジャー会議で話題になっていたぞ」など、意外な場面で褒めることがやる気につながった。
避けたいのが「やる気を出せ」「もっと頑張れ」という「よかれ」と思って行う激励だ。むしろやる気をそいでしまう。パワハラにもなり得る。
ここまで書いてきた上で、大胆にちゃぶ台をひっくり返すが「やる気」を引き出すことに過剰に力を入れるのは「明るく楽しいブラック企業」の手法である。朝礼、会話やメールなど日々のコミュニケーション、ポエム的なスローガン、宴会、表彰制度、インセンティブ、カリスマ的経営者からの激励など、やる気の出る仕組みが完成している。笑顔で働くのだが、疲弊する。
MVP表彰のたびに、「対馬くん、ありがとう」「洋平、おめでとう」など取引先の社長や、実家の家族などが登場するサプライズビデオをつくり、泣かせにいく企業もある。みんながナンバーワンをめざし、競争し、疲弊する。私の古巣リクルートがそうだった。やる気に満ちあふれるのだが、やりすぎではないか。
どうやったら、メンバーがやる気になるか。これを機会に見直そう。ただ、やる気アップもほどほどに。