常見陽平のはたらく道2023.05

研修をいかに「自分ごと化」するか
役立つ研修にするために

2023/05/15
研修を実のあるものにするにはどうしたらいいか。「自分ごと化」がポイントだ。

春は研修シーズンである。会社員時代、思い出に残る研修がいくつかあった。宿泊予約サイト「じゃらんnet」の企画を担当していた頃に受けた、ターゲットとなる観光客のイメージを掘り下げる研修は約20年前に受けたものなのに、いまだによく覚えている。自らの旅行の思い出から始まり、観光客のプロフィール、旅行の目的などからニーズを分析する。最後は、「宿泊先の宿でプロポーズされた」など観光客の声が紹介され、講師も含め感極まった。スキルもマインドも高まる研修だった。

自身の人生を振り返り、価値観や強みを確認する研修も忘れられない。自分のこれまでの取り組みを意味付けし、ビジネスでかかわりのある人の中で、どのような役割が期待されているかを理解できた。

その後の会社員生活においては、研修の企画を担当する機会も増えた。人事をしていた頃は、内定者と社員が自分の人生を共有し合うという研修を企画した。私のことを滅多に褒めない上司が、絶賛してくれたことを覚えている。参加者が何を大切にしてきたかが共有され、結果的に内定者たちに納得して入社してもらうことにもなったし、社員の士気も上がった。

研修を企画する上でも、参加する上でも大事なキーワードは「自分ごと化」である。つまり、自社や参加者にとって役立つものになるようにするにはどうするかを考え抜きたい。「お勉強」ではいけない。

私自身、研修講師として登壇することが多いが「とりあえず、外部の人を連れてきた」という状態は、謝礼の額が高かろうとも、御免である。研修を主催する側は、どのように場をデザインするかを考えたい。主催者は研修の意図を講師にも、参加者にも丁寧に伝えるべきだ。

実は研修は主催者、参加者ともに全体や各セッションについてしつこいくらいに意味付けすることが重要だ。アンケートで複雑な心境になってしまうのが「自分がいま、直面している問題に対する答えが提示されなかった」というものである。もちろん、登壇者、主催者にも問題はある。研修の内容が不十分だったことや、個々人がどう生かすべきかというヒントが薄かった可能性はあるだろう。しかし、研修は面談とは異なる。知りたいことに網羅的に回答することはできない。共通した課題や、まねることができるポイントもあるはずだ。どうすれば役立てることができるか、考えるべきだろう。

参加する側にとっては、研修をどう生かすかという姿勢が大切だ。それは本来の研修の意図から外れてもよい。たとえば、社内での人脈を広げる、プレゼンテーションの技を磨くなどである。たまに、研修内容や講師が大外れということもある。その際は、質問を通じて自分の知りたいことを引き出すようにするとよい。時間を無駄にしないように、その場や講師を使うのである。

研修は必ずしも、スキルやマインドのアップだけが目的ではない。周りとのつながりをつくることも大切だ。コロナ明けモードの現在、人と人が会って語り合うこと、これも立派な研修の価値だ。

昼寝の時間にしてはいけない。「自分ごと」になるよう、主催者も参加者も工夫したい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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