特集2024.04

歴史と運動から学ぶ
労働組合はなぜ必要なのか
労働組合法はなぜ重要なのか?
法への理解を深め組合活動の活性化を

2024/04/10
労働関係の法律というと労働基準法を思い浮かべる人が多いはずだ。だが、それを守らせるためにも、それ以上の労働条件を得るためにも欠かせないのが、労働組合法だ。労働組合法を知って組合活動の活性化につなげよう。
嶋﨑 量 弁護士
日本労働弁護団常任幹事

労働組合への特別な保護

労働組合法は、憲法28条の趣旨を実現するための法律です。憲法28条は、いわゆる労働3権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を定めています。その趣旨を具体化したものが労働組合法です。

少し細かい話をすると、労働組合法は戦後すぐ、現行の日本国憲法ができる前に成立し、施行されています。つまり労働組合の権利は、憲法に基づくだけではなく、近代社会においては当然の権利であるということです。

これらは一般的な説明ですが、大切なのは、労働組合法によって何ができるかです。労働組合法の理解を深めることで、労働組合の活動の幅が広がることが大切です。

労働組合法がなくても働く人たちは、「結社の自由」に基づいて任意団体をつくることができます。にもかかわらず、憲法28条や労働組合法が、労働組合という組織を特別に認めているのには、さまざまな理由があります。

労働組合は、その活動が正当であれば、刑事責任や民事責任が免責されます。例えば、ストライキは、会社業務の妨害で、威力業務妨害罪などの刑法に該当する場合がありますが、正当なストライキであればその責任を免れることができます。同様に、ストライキが会社に損害を与えても正当なストライキであれば損害賠償を受けません。これは任意の団体には与えられない強い保護です。

また、こんな活用方法もあります。例えば、労働組合がSNSを使って会社に対する意見表明を行ったとしても、労働組合の正当な活動であると認められれば、名誉()(そん)などの損害賠償の対象になりません。団体行動権の一部と認められるからです。個人でSNSを発信するよりも、労働組合の活動として行った方が強い保護を受けられるのです。

社員会にはできない

さらに労働組合法は、労働組合の団結権を保障するために不当労働行為制度を設けています(労働組合法7条)。不当労働行為には、(1)不利益取り扱い、(2)団体交渉拒否、(3)支配介入──という三つの類型があります。

(1)の不利益取り扱いは、組合員であることや労働組合活動に参加したことなどを理由として不利益な取り扱いをすること。(2)の団体交渉拒否は、労働組合の団体交渉の申し入れを拒否すること。使用者には団体交渉の応諾義務や誠実交渉義務があります。(3)の支配介入は、労働組合の結成や運営に使用者が介入することです。これらの行為を使用者がとると不当労働行為という違法行為になり、労働組合は救済措置を受けられます。

このような仕組みは、任意団体にはありません。社員会と比べるとわかりやすいと思います。社員会であれば、使用者がその結成や人事に介入してきても違法になりません。労働組合法に交渉応諾義務や誠実交渉義務があるからこそ、会社にとって耳の痛い話であっても会社は交渉に応じなければいけません。労働組合が法的に守られているからこそ、一歩踏み込んだ対応ができるのです。

労働協約の重要性

労働組合はさらに、会社と交渉して勝ち取った成果について、会社と労働協約(労働協約を下回る労働契約を無効とする、強い効力を持つ会社との合意)を締結する権利が認められています。これによって法律を上回る労働条件を会社に守らせることができます。

これに加えて、労働組合が締結した労働協約を、地域全体に広げることもできます。それが労働組合法18条1項の労働協約の地域的拡張適用です。この条項は、ある地域の労働者の大部分が一つの労働協約の対象になった時は、その労働協約を地域全体に拡張できるという仕組みです。近年になってこの仕組みが、再び注目されるようになってきました。この仕組みは、企業の枠を超えて労働条件を引き上げることができるものであり、労働組合が地域社会にとって大切な存在であることを意味しています。

労組法を活用しよう

日本の労働組合は、他国に比べて結成が容易であることも特徴です。企業別労働組合が中心ですが、産業別労働組合も個人加盟ユニオンもあります。日本で労働組合に加入する労働者は少ないですが、労働者には多様な選択肢があるといえます。労働関係の法律というと、労働基準法を思い浮かべる人が多く、労働組合法を思い浮かべる人は少ないと思います。しかし、労働基準法は、ただあるだけでは守られません。中小企業の現場では、労働基準法すら守られていない実態がたくさんあります。それを守らせるためには、法律を守らせる主体が必要であり、その役割を担うのも労働組合です。

さらに労働組合は、最低限度のルールを守らせるためだけの存在ではありません。労働基準法1条2項は、「労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と定めています。このことができるのが、労働組合です。労働組合法1条は、「労働者の地位の向上」が法律の目的だと述べています。最低基準以上の労働条件をめざすには、労働組合の活動が不可欠だという認識を広げる必要があります。

実際、労働組合は、賃上げのほか、労働時間の短縮やハラスメント対策、育児や介護に関する職場環境の整備など、さまざまな活動を展開しています。その活動の背景に、労働組合の権利を保障する労働組合法があります。労働組合法に対する理解を深め、組合活動の活性化につなげてほしいと思います。

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