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2016ソフトワーカー労働実態調査を実施
情報サービス産業の「メンタルヘルス」をテーマに調査

2017/01/31
情報労連は、情報サービス産業の健全な発展と、IT技術者に相応しい労働条件を実現するために、1993年から「ソフトワーカー労働実態調査」を実施し、情報サービス産業の労働者の実態把握を行っている。調査は、2016年で24回目を迎えた。2016年は、5~7月にかけて実施。309社から協力を得た(2015年319社)。調査の概要を紹介する。

「ソフトワーカー労働実態調査」は、賃金、一時金、労働時間、経営課題などの継続項目に加えて、各年で特集項目を設定している。2016年は、「職場におけるコミュニケーション」「メンタルヘルスへの対応」を特集項目とした。安全衛生法の改正に基づき、2015年12月から労働者が50名以上の全事業場でストレスチェックが義務化されることから、職場におけるコミュニケーションの状況とメンタルヘルス対策を取り上げた。

調査結果の概要は以下の通り。

集計企業の構成

まず、集計企業の構成は、回答が寄せられた309社のうち、「情報サービス」が278社であり、このうち「ソフトウェア開発」が166社となっている。企業規模別の構成は「20人以下」(7.8%)から「1000人以上」(10.4%)までばらつきが大きくなっている。

労働組合の有無で見ると「有」の企業が30.4%だった(図1)。労組の有無は企業規模によって違いが大きく、規模が小さいほど労働組合「有」の企業が少なかった。100人未満規模で労働組合のある企業は12.3%だった。

【図1】労働組合の有無

労務構成

回答企業で働く正社員の性別構成は、「男性」が82.3%、「女性」が17.7%だった(図2)。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2015年)における産業計の女性比率は33.4%であり、これよりも女性比率は低いという結果になっている。

雇用形態の構成は、全従業員に対する非正社員比率は13.4%だった。

【図2】正社員の性別構成

所定内賃金

モデル所定内賃金(平均額)は、■短大・高専・専門学校卒が20歳186,731円、25歳217,517円、30歳266,327円、35歳295,088円、40歳344,904円、45歳379,819円、■大卒が25歳225,266円、30歳270,689円、35歳309,369円、40歳359,683円、45歳403,234円――と推移している。

資格等級ごとの所定内賃金について平均額をみると、一般職が239,812円、係長・主任相当が316,223円、課長相当が417,118円、部長相当が508,632円だった。

労働時間

2016年(度)の年間所定労働時間は平均1,898時間、2015年(度)実績の年間総労働時間は平均2,030時間だった。年間総労働時間の長期的な推移をみると、2005年実績(2,100時間)以降、2010年実績(2,025時間)まで減少を続けてきたが、その後は調査年によって増減があるが、ほぼ横ばいで推移しており、高止まりの状態が続いている(図3)。

36協定の特別条項付き協定に関しては、8割の企業が「締結している」(80.6%)。1年の特別延長時間は企業によって幅があるが、「900時間超」(9.3%)に定めている企業も1割みられた。

【図3】総実労働時間、所定内労働時間の推移(年度での回答を含む、平均値・時間)

社内コミュニケーションの評価

コミュニケーションについて、全体的な状況をたずねたところ、「とれている」(「十分とれている」「大体とれている」の計)は54.4%となり、現状を否定的に評価している企業(「あまりとれていない」「まったくとれていない」の計)は1割未満と多くなかった。

こうした中で、社内コミュニケーションが円滑にいかない原因をたずねたところ、最も比率が高いのは「業務多忙」(58.3%)であり、「コミュニケーションスキルの不足」(46.0%)、「世代間での意識・価値観のギャップ」(35.3%)と続いた(図4)。

【図4】社内コミュニケーションが円滑にいかない原因(4つ以内選択)

メンタルヘルス

過去1年間でメンタルヘルスの不調により1カ月以上欠勤・休職している従業員が「いる」と回答している企業は61.5%であり、約3社に2社の割合に上った(図5)。「いる」と回答した企業は規模が大きいほど、比率が高くなることに留意する必要がある。1000人以上規模では84.4%、100人未満規模では35.4%だった。

【図5】メンタルヘルス不調による1ヶ月以上の欠勤・休職者の全従業員に占める割合(過去1年間)

ここ数年におけるメンタルヘルスの不調を原因とする欠勤・休職者の増減傾向をたずねると、「増加している」が15.2%、「横ばい」が37.5%、「減少している」が17.8%となっている。「増加」と「減少」とが拮抗している。ただし、2011年調査の時点では「増加している」(22.8%)が「減少している」(14.5%)を上回っていたことと比べると、状況はやや改善してきたことがうかがえる。

メンタルヘルスの低下する原因を複数選択で選んでもらった。結果は、「仕事上の人間関係」(61.5%)と「仕事の責任の増大や仕事内容の高度化」(56.0%)が6割前後で上位に並び、以下「コミュニケーションの不足」(45.6%)、「本人の生活上の問題」(45.0%)が4割台で続いている。仕事の量(「長時間労働」35.0%)も原因としてみられているが、それ以上に、仕事の質(「仕事の責任の増大や仕事内容の高度化」など)を原因としてみている企業が多かった(図6)。

これを企業規模別でみると、規模の大きい企業ほど「長時間労働」を意識している企業が多く、1000人以上規模の場合、50.0%が原因としてあげている。他方、100人未満規模で「長時間労働」(24.6%)を原因と考えている企業は少なかった。

【図6】メンタルヘルス低下の原因(複数選択)

客先常駐

今回の調査では、客先常駐しているソフトワーカーのコミュニケーション、メンタルヘルスについてもたずねた。客先常駐者のメンタルヘルス上の課題を複数選択で聞いたところ、具体的な課題としては、「ストレスや悩みの把握が難しい」(52.8%)が最も多く、これに「労働時間が長くなりやすい」(35.3%)が続いた(図7)。

情報サービス産業において、客先常駐は多くみられるが、コミュニケーション不足などが要因となった会社への帰属意識の低下などの問題が指摘されており、客先常駐者に対する社内情報の開示や、よりきめの細かい対応が求められると言える。

【図7】客先常駐者のメンタルヘルス上の課題(複数選択)

メンタルヘルス不調の未然防止の取り組み

法律で義務化されたストレスチェックのためのアンケートへの対応方法をたずねた。法律で義務化されたストレスチェックのためのアンケートについて、「義務化前からアンケートを実施しており、そのまま継続している(する予定)」(15.2%)や「義務化前からアンケートを実施していたが、内容を見直した(見直す予定)」(8.7%)といった企業は2割と少なく、「義務化にあわせ、新たにアンケートを実施した(する予定)」(48.5%)とする企業が多い。

ストレスチェック実施に対する課題としては、「メンタル不全者への対応時の個人情報の取り扱いが難しい」(31.1%)が最も多くあげられ、以下、2割台で「客先常駐など分散している従業員の取り扱いが難しい」(23.9%)、「高ストレス者の選定基準があいまい」(23.3%)、「産業医、保健師など実施者の確保が難しい」(22.7%)が続いている(図8)。

【図8】ストレスチェック義務化への対応をめぐる課題(複数選択)

情報労連の取り組み

政府は「働き方改革」を主要な政策に掲げており、厚生労働省は「IT業界の長時間労働対策事業」を実施している。この事業に基づいて検討委員会が設置されており、情報労連は委員を派遣し、労働組合の立場で発言している。

経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(2016年)では、IT人材不足は今後ますます深刻化すると予測されている。人材不足に対応するためには、産業の魅力度向上を図る必要がある。情報労連は、現状の課題解決に向けて、多段階契約などの適正な契約方式への転換や労働条件の改善、ワーク・ライフ・バランスの一層の推進を展開していく。

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