渋谷龍一のドラゴンノート2016.12

【第1編】母親になる前に ~女性の「ライフコース」がみえていますか~「育休」取得8割の本当の意味

2016/12/15

最新の厚生労働省『雇用均等基本調査』によると、企業で働く女性の2015年の育児休業取得率は81.5%です。近年では9割弱の取得率が続きましたから、若干減りました。確かに育休を取れば会社を辞めずに育児に専念し、復帰して再び働き続けられますから、女性の多くが出産で退職するというのは本当なのかと疑いたくなるかもしれません。しかし、誤解だらけです。

まず、取得率の8割ですが、会社を辞めなかった女性のうちの8割が育児休業を取得したことを示しています。大半の女性が出産で退職しない話ではまったくなくて、実は当たり前の結果です。

次に、「育児介護休業法」があるからといって、当然のように取得できると思われがちですが、大間違いです。およそ4割の女性が育休を希望しても取得できていません(連合非正規労働センター『第3回マタニティハラスメント(マタハラ)に関する意識調査』2015年)。

さらに、男性の育児休業取得率が上昇してきたと言われますが2.65%です(2015年度)。妻が会社を辞めるか、辞めなくても育休は妻が取るものと決まっているのが現状です。しかも男性が育休を取得する場合には、ごく短期の取得が多いのです。短期間なら口頭連絡だけで育休が取れるとか、5日間なら有給という運用の企業があります。そんなに短いのなら、マスコミで毎年数百人規模の男性が取得するという大企業が報道されるのも納得です。

最後に、育児は育休を取れば解決するものではありません。念のため。その後も連綿と続きます。育休から復帰した時に子どもがいなくなるわけではありません。育休復帰後の妻は育児と仕事に疲弊しながら、社会からは育児に専念していないことを、職場からは仕事に専念していないことを非難されがちです。だから、実は育休から復帰した後に窮地に陥った多くの女性が退職していきます。これらの苦難を覆ってしまう「育休8割」に惑わされてはいけません。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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