渋谷龍一のドラゴンノート2019.07

【第3編】職場~企業と「カイシャ」の違いを知っていますか~時間ドロボウ2

2019/07/12

みなし労働時間制度では働いた時間より短くみなすこともある、と聞いたことがあります。そんな理想像は有史以来の「労働者の宿命」の前で消し飛んでしまいます。カイシャは長時間労働を求め、みなし労働時間制度をほしがるのです。

だとすると、労働法でこれまで通りの規制と罰則を設けても、長時間労働の解消は無理でしょう。みなし労働時間制度を廃止してしまうか、みなし制度以外の発想で、働いていないのに働いているとみなす制度を発明するしかないでしょう。その一例が、勤務間インターバル制度です。本誌を発行する情報労連は先進的に取り組んできましたので、頻繁に紹介されています。

仕事の終わりから次の始まりまで11時間など一定時間を挟むことを強制するこの仕組みは、次の始業時間を超えても、インターバル時間が終わるまで仕事を始めなくてよく賃金も失わないので、長時間労働を解消できそうな条件に当てはまります。EU諸国で導入済みで、日本でも労働組合が主導して次々に開始されています。労働者側による「労働者の宿命」への挑戦と言えますが、監視力がないと無力です。労働組合がありしっかり交渉や行動ができることが必要で、全体効果からすればまだ範囲が限られ微力です。

一方で、そんなに長時間労働で家庭での生活はどうなっているのだろうか、と不思議に思いませんか。すさまじい長時間労働、死に至る痛ましい事件に巻き込まれる正社員の家庭生活を成立させている誰かがいるはずです。

見渡せばすぐわかります。未婚者なら親とか、既婚者なら妻などです。念のため、家族の関係の是非をうんぬんするつもりはありません。鉄壁の「労働者の宿命」に立ち向かうためには、無責任な理想像は捨てて、これまでは目を閉じてきたことをあえて凝視する必要がありはしないか、と思っているのです。

「時間ドロボウ」の裏には、「日本のキホン」(本シリーズ第18話)が顔を出していて、がっちり手を結んでいるのです。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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