新型コロナウイルスと労働関連問題海外の労働組合の対応
復興の原則に「気候変動対策」などを示す
国際担当部長
発展途上国で広がる危機
4月上旬、フィリピン最大のコールセンター「テレパフォーマンス」の職場環境が『フィナンシャルタイムズ』で報じられた。感染防止対策で移動が制限されている中で会社は従業員を職場に軟禁し、30日間にわたって職場での寝泊まりを強いていたことが発覚した。従業員は、時間が来たらヘッドセットをつけて仕事をこなし、勤務が終わったら床に寝て睡眠を取るという生活を繰り返していた。従業員たちは、賃金をもらうためには上長の命令に従うしかなかった、と述べていたという。
また、インドの6州の政府は、出勤者を減少させる代わりに労働時間を8時間から11時間まで延長すると宣言した。合わせて、労働組合活動や新たな組合設立も制限すると通告した。インドの労働組合は、これはコロナ禍に便乗した明らかな労働組合つぶしだと猛反発している。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、アジアのサプライチェーンは危機に陥っており、将来的に分断されるリスクがある。欧米の衣料品ブランドの業務停止は大幅な受注停止を招き、アジア全域で何百万人もの縫製労働者が仕事を失った。いくつかの国では繊維産業が経済の支柱であり、国全体の経済危機にも直結する。
加えて、南アジア諸国から海外への出稼ぎ労働者が仕事を失って本国への仕送りが停止し、家族全員が路頭に迷うという事案も多数報じられている。ウイルスへの感染は人種や国境を選ばないといわれているが、立場の弱い労働者やインフォーマルワーカーへの影響が大きいのは明白である。
各国の救済策
すでにいくつかの国では企業の救済措置に条件が課されており、フランスとデンマークは、タックスヘイブンで租税回避措置を行ったとみられる企業が支援を受けられないように制限した。また、航空会社への救済措置の条件として、正社員に加えて契約労働者も同様の所得補助を義務付けている国もある。
UNI欧州地域組織を含むヨーロッパの国際労働組織は、欧州委員会に対して、コロナウイルスに感染したサービス労働者を労災の対象範囲に含めるように要請した。対象となる業種は医療従事者やスーパーの店員などに加えて、物流、クリーニング、警備などを含めたサービス産業全般の労働者が対象となるべきであり、適切な補償が受けられるようにすべきだと訴えている。
真の経済復興への提言
UNIは、経済回復と新しい社会づくりにも目を向けた議論をしなければならないと考えている。ホフマン書記長は、「これは変革の好機だ、社会をより良くしていこう」と述べ、公平で格差のない社会づくりの機会創設につなげたいと考えている。また、リモートワークなどの新しい働き方の指針やオンラインツールを利用した組合への組織化支援開発に着手している。今後、ますますデジタル化が進むことを見越して、従業員のデータ保護強化策の提言や、倫理的なAIの実践に向けて、加盟組合に適切な助言を行っていきたいとしている。
今後、傷んだ経済を復興させるためには、相当の年数と努力が必要であろう。ITUCおよびグローバルユニオンは、復興の原則には、「雇用確保」「格差解消」「気候変動」の三つの要素が含まれるべきとの考えを示している。
具体的には、(1)安心・安全に働くための雇用政策(2)格差解消に向けた社会保護の底上げ(3)気候変動に対処するための環境に優しい経済への投資──であり、このような包括的な視点なくしては真の経済回復にはつながらないとの考えである。一見、困難とも思えるが、三要素を伴った経済復興こそが、持続可能な社会再構築への近道となるであろう。