特集2020.06

新型コロナウイルスと労働関連問題休業や売り上げ減が相次ぐ
中小企業への影響と労組の取り組み

2020/06/12
中小企業の労働組合が加盟する情報労連De-self労働組合。休業や売上減少などを余儀なくされている企業が相次いでいる。支援策の課題や労働組合の取り組みを聞いた。
中野 匡 情報労連De-self
労働組合中央執行委員長

売り上げ減少や休業

「20ある支部のうち4割弱が、一時休業や時短に追い込まれている」

新型コロナウイルス感染拡大の影響について、業種を問わず中小企業の労働組合が加盟する、情報労連De-self労働組合(組合員数1390人)の中野匡中央執行委員長はこう話す。

特に影響が大きいのがサービス業だ。支部の一つ、日本語学校の職場では、外国人の出入国制限で4月の新入生が97%減少。既存の学生も3割減少した。授業はオンラインで一部再開されたものの非常勤講師の担当授業が減り、収入が大きく落ち込んでいる。組合では休業補償に関して会社と交渉中だ。

公営競技に関係する職場では、レース中止に伴い、売り上げが減少、休業を余儀なくされた。プラモデルなどの卸販売を行う職場は、当初はネット販売が好調だったが、量販店の休業や中国の製造工場の停止などの影響で売り上げが落ち込み、出勤日数を減らす対応を取った。

また、ビルメンテナンスの職場では、顧客であるホテルの稼働率が激減したことで、売り上げ減少に苦しんでいる。

製造業にも影響が出ている。自動車部品を製造する企業では、4月下旬から5月上旬まで休業。その後も稼働日数を減らしている。

見えてきた課題

休業もしくは稼働日数を減らしている職場では、交渉中の支部は一部あるものの基本的には賃金が全額補償されている。しかし、見えてきた課題も多い。「雇用調整助成金をはじめ、支援を受けるのに非常に手間がかかる。会社と休業補償の交渉をしているうちに事態は悪化する。組合員の手元にお金をスピーディーに届ける必要がある」と中野委員長は指摘する。

格差の問題も見えてきた。支部の組合員は100%の休業補償でも非組合員の非正規雇用労働者は6割の職場や、正社員・有期契約等労働者はともに100%の休業補償だが、請負会社の労働者は60%の職場もある。「多様な働き方が広がる中で、中小、非正規、請負に関する格差が浮き彫りになった。組合の組織化が急務」と危機感を強める。

一方、労働組合が交渉を積み重ねてきたことで得られた成果もある。正社員と非正規雇用労働者の休業補償の割合が異なっていた支部では、「同一労働同一賃金」の議論を重ね、同一の割合へと見直した。他の支部でも同様の取り組みを進めてきた。こうした交渉が今回の事態の中でも生きた。

「この間の労使交渉があったからスムーズに話し合いができた」と中野委員長は強調する。平時からの集団的労使関係の構築が非常時に大きく影響している。

団体交渉への影響も

中小企業への影響は今後さらに拡大する可能性が高い。

「これまでは人手不足などを背景に、賃上げなどを要求してきたが、それどころではないという雰囲気が強まっている。格差の是正やパイの再分配が課題になる」と中野委員長は指摘する。

加えて、感染防止策が団体交渉に及ぼす影響を懸念している。

「『三密』回避を理由に団体交渉をウェブや書面に切り替えているが、団体交渉で丁々発止のやりとりをするのは難しい。『コロナ対策』を理由に団体交渉を先延ばししたりする企業が増えるかもしれない。労働委員会が止まっているので不当労働行為の救済命令もすぐに出ない。団体交渉という武器が使いづらくなることを危惧している」(取材・5月)

組合員が集まりづらいという側面でも、労働組合活動が弱体化する可能性もある。上部団体や仲間のサポートが必要だ。

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