特集2018.08-09

職場の労使協議/ワークルール総点検「過半数代表者」の選出は適正ですか?
労働組合の存在意義が問われます

2018/08/10
「36協定」など多くの労使協定で重要な役割を担う「過半数代表者」。適正な方法で選出されていないと大きなリスクになる。
中島 豊一 情報労連アドバイザー
特定社会保険労務士

とある事業場で

全国に事業場のあるX会社の90%の社員が加入するY労働組合。この会社の「組合員ではない」無期転換労働者のAさんは、時間外労働を命じられ時間外労働を行いました。Aさんに適用される就業規則にも時間外労働を命じることがある旨が明示されていました。

Aさんが所属するZ事業場の労働者数は50人ですが、そのうちY労働組合の組合員は20人。事業場の36協定書を調べると、従業員代表者の欄にはY労働組合のZ支部B支部長の署名捺印がありました。AさんはB支部長の名前さえ知りません。疑問に思い、社外のCユニオンに相談したら、その36協定は無効であり、その事業場の時間外労働は労働基準法違反に当たるから裁判を提起しようと言われました。Aさんは早速Cユニオンに加入しました。

過半数代表者の選出方法

この物語の場合、B支部長がZ事業場の過半数代表者として適正に選出されているかが問われます。過半数代表者を選出する際の母数となる労働者は、当該事業場の管理職、パート、有期、出向社員、正社員、休職者などすべての労働者となります(昭和46・1・18基収第6206号、昭和63・3・14基発第150号)。

そして過半数代表者となる者は次のいずれにも該当する者です(労働基準法施行規則第16条)。(1)監督または管理の地位にある者でないこと(2)法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であること。従ってこの物語の場合、B支部長は苦しくとも50人全員による選挙に勝ち抜く必要があります。

過半数代表者の選出が必要な場面は数多くあります。例えば(1)労働基準法(強制貯金、賃金控除、変形労働時間制、フレックスタイム制、休憩時間の一斉付与、36協定、事業場外労働みなし労働時間制、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制〈労使委員会の半数は過半数代表者による指名〉、時間単位の年休、計画年休、就業規則への意見(2)労働安全衛生法(事業者は委員の半数は過半数代表者の推薦に基づき指名)(3)派遣法(派遣期間を延長する場合の派遣先の過半数代表者の意見徴収)─などがあります。高度プロフェッショナル制度もこれらに加わります(労使委員会の委員の選出)。

問われる労組の存在感

昨今、「従業員代表者制」が議論されています。そこには、(1)99人以下の企業における組織率は1.1%と非常に低い(2)過半数組合であっても非組合員などを含めた事業場の全労働者を当然に代表する正統性を持つわけではない─という意見に代表される背景があります。

他方、働き方改革関連法の付帯決議では15、16項において「過半数代表者」の正当性を厳しく監督指導することとされました。そして労働基準監督署の体制強化が求められ、監督官の人数不足を補うため監督官の業務の一部を民間委託することも決まっています(労働基準監督業務の民間活用タスクフォース)。加えて、企業のコンプライアンスに対する株主の目も厳しくなっており、株主総会の議論ともなっています。

従って、労働組合はもう一度36協定などに関する「過半数代表者」の正当性について点検するとともに、「組織拡大」にまい進する必要があります。働き方改革関連法をどのように生かして労働組合の存在感の向上につなげていくのか、その真価が問われています。

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