特集2018.08-09

職場の労使協議/ワークルール総点検無期転換阻止は使用者にデメリット
労使協議で働き続けたい職場へ

2018/08/10
有期労働契約を反復更新して通算5年を超えたときに労働者の申し込みによって期間の定めのない契約に転換する労働契約法18条の「無期転換ルール」。制度に魂を吹き込むのは労働組合の使命だ。
嶋﨑 量 弁護士

最初のチェックポイント

「無期転換ルール」に関する最初のチェックポイントは、自社における有期契約労働者の状況確認です。有期契約労働者の人数はもちろん、契約更新の回数や無期転換申込権が生じる時期などを把握することが最初のステップです。これらの事項は、団体交渉の交渉事項になるので、会社側に情報開示を求めることができます。

その際、職場で受け入れている派遣労働者の状況も確認してください。受け入れ企業にとっても、受け入れている派遣労働者が無期契約か有期契約かで受け入れ期間が変わりますし、派遣法に基づいて、労働組合が受け入れに関して意見聴取されることもあります。同じ職場で働く仲間として、労働組合がサポートする必要があります。

無期転換阻止のデメリット

労働組合は、無期転換を阻止するための雇い止めを許してはいけません。雇い止めにはいくつかの類型があります。「労働条件切り下げ型」「不更新条項、不更新通知型」「試験選抜・能力選抜型」「クーリング期間悪用型」などです。それぞれの対応について、ここでは細かく説明できませんが(参照:嶋﨑量著『5年たったら正社員!? 無期転換のためのワークルール』(旬報社))、契約更新を重ねた後で突然、労働条件を切り下げたり登用制度を導入したりすることは、企業にとって法的なリスクがあると言えます。

重要なのは、無期転換阻止の雇い止めは使用者にとっても無益・有害であるということです。多くの職場が人手不足で悩んでいる中、5年以上継続して働いてきた人材を、無期転換阻止という理由で雇い止めすることは使用者にとってもメリットがありません。例えば短期間で人が入れ替われば、それだけ技術・技能が伝承されませんし、採用・引き継ぎコストが高くなります。さらに、それらが現場の不満につながり、離職率をさらに高めることにもなります。

労働組合は、会社と協議する前に、ぜひ職場単位で有期契約労働者の意識調査を実施してください。意識調査では、無期転換ルールの認知状況だけではなく、就労意欲や無期転換後のキャリアイメージ、待遇などについて聞くとよいでしょう。理由を聞いていくうちに自社ではなぜ人材が定着しにくいのか、やりがいを高めるためにはどうしたらいいのかという課題が見えてくるはずです。そうした課題を労使で協議し、改善していくことで、企業のブランド価値が高まると考えるべきです。長く働きたいと思われない職場には企業の求める人材は集まってきません。

無期転換ルールのイメージ
出所:厚生労働省

上限設定と登用制度

一方、無期転換を回避するために、契約の当初から更新期間・回数に上限を設定する手法が散見されます。法的に言えば、こうした場合、対策が悩ましいというのが正直なところです。しかし、意欲のある人材は、上限があらかじめ決まっている職場をあえて選ぶでしょうか。企業がいい人材を採りたいと考えているなら、上限をあらかじめ設定する方法は避けるべきです。

また、登用制度を導入して、一部の有期契約労働者だけ無期転換に登用しようとする手法も見られます。これでは、「非正規雇用の働き方」が職場に残り続け、職場全体の処遇が改善していきません。長く働いている有期契約労働者の待遇を底上げするという、無期転換ルールの意義から逸脱していると言えます。労働組合はそのような制度では、定着率が高まらず、かえって現場の負担が高まっている現状などを把握し、その声を使用者側にぶつけてほしいと思います。

成果をSNSなどで発信を

無期転換ルールでは、転換後の労働条件について従前と同じになることが原則です。しかし、無期転換申込権を行使した時点で「別段の定め」があれば、これに限りません。労働組合は「別段の定め」を活用して積極的に無期転換後の労働条件の改善を図っていくべきです。

無期転換後の労働条件に関しても、有期契約労働者のニーズを把握した上で就業規則などを整理していくとよいでしょう。一般的には、正社員と有期契約社員では働き方に何かしらの違いがあり、無期転換後に突然、正社員と同じように働くのは無理な場合が多いでしょう。労働時間、勤務場所、待遇などの実態・ニーズに合わせて複数の就業規則を整えるなどの対応が求められます。退職金や賞与、手当などのあり方も含め、賃金体系を労使で協議する必要があります。

無期転換ルールは、労働組合の存在を抜きにしては、法が本来想定した趣旨を実現することができません。雇用が安定することで労働者は権利を主張しやすくなりますが、実際に労働条件を向上するには職場の実態を踏まえた労使協議が不可欠だからです。

無期転換ルールは組織化の大きな契機となります。無期転換した労働者の組織化はもちろん、有期契約労働者を組織化して、その声を使用者に届けてください。無期転換ルールに魂を吹き込むのは労働組合です。労働組合の社会的信頼度を高めるためにも、無期転換に取り組み、労働組合のない職場の労働者のためにもその成果をSNSなどを通じて社会に積極的に発信してほしいと思います。

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