職場の労使協議/ワークルール総点検企画業務型裁量労働制の運用と労働組合
チェック機能が働かない限り成立し得ない
一橋大学大学院社会学研究科 科研費研究員
ヒアリング調査を実施
本稿では、企画業務型裁量労働制の運用にあたって、労働組合がどのように関与しているのか、インタビュー調査をもとに明らかにしていく。
専門業務型裁量労働制については、本誌2016年11月号(「労働組合が裁量労働制の運用に規制力を発揮」)で報告したが、とりわけ企画業務型においては、対象業務が非常に曖昧であるという問題をはらんでいる。法律では、「企画、立案、調査及び分析の業務」とされているが、どんな業務がこれに該当するのか、特定されてはいない。
そのため、どの業務を担う・誰に、この制度を適用するのか、また、このことを巡って労使でどのようなやり取りがあるのかを明らかにする必要がある(本制度を導入している1企業の労組〈情報労連の加盟組合〉の役員3名にインタビュー調査を行った)。こうした具体的な制度運用について把握することは、今後、適用業務の拡大の議論が予想される中で重要であろう。
調査結果として、端的には、対象業務は明文化されているわけではなく、労使でそのつど、制度適用の申請があった業務について検討を行っていることがわかった。このとき、東京労働局・労働基準監督署が発行している「『企画業務型裁量労働制』の適正な導入のために」を参照し、これに「どう合致するのかっていうのを、毎回毎回、労使で議論して」いるとのことだ。
興味深いのは、次の発言である。「これに合致するような業務を、例えば7割ぐらいやっていて、他の3割は定型業務で、時間裁量がないとか、業務を進める上で裁量権がないっていうような業務をしている場合は、『その3割は誰か他の人にやってくれ』とか、『じゃあ、その人は適用できませんね』」と、労組が業務の再配分を求めている点である。つまり、「企画、立案、調査及び分析の業務」に100%近く合致しなければ、適用には至らないという運用がなされている。
労組不在での導入は危険
このように慎重に対象業務についての適否を検討しているため、申請から6カ月近くかかり、途中で導入を断念する管理職もいるという。実際に、今年度から適用しようと申請してきた8部門のうち、この手続きをクリアしたのはわずか1部門であった。
以上の事例は、厳格に制度運用されているものであるが、裁量労働制においては、本来、こうした労組の強力な介入が想定されている。なぜなら、労使委員会決議の労基署への届出等は義務付けられてはいるものの、具体的な制度運用は、労使の手に委ねるという制度設計を取っているからである。逆に言えば、労組のチェック機能が適切に働いていない限り、企画業務型の適用は成立し得ず、労組不在の企業における本制度の導入が極めて危険であることが、改めて示された。