職場の労使協議/ワークルール総点検広がる「長澤運輸」判決の影響
高年齢者雇用のあり方を労使で協議を
高年齢者雇用安定法
超少子高齢化に伴い労働力人口の減少と高齢化が急速に進んでいます。また、公的年金支給開始年齢(老齢厚生年金の報酬比例部分等)の引き上げに伴う雇用と年金の接続や日本経済をはじめ企業の持続的な発展等の観点からも、働く意欲と能力のある高齢者が、その能力を発揮して、希望すればいくつになっても働くことができるような環境整備が求められています。
2013年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、この間、法改正の趣旨を背景にそれぞれの労使では、高齢者雇用の促進に向けた対応を進めてきています。具体的には(1)定年の引き上げ(2)継続雇用制度の導入(対象者を限定できる仕組みの廃止)(3)定年の廃止─のいずれかの整備を行ってきています。
「長澤運輸」判決の影響
一方、今年6月には、定年前と同様の仕事を行う定年再雇用者(有期契約社員)が、正社員との待遇差の不合理性を争った最高裁判決(長澤運輸訴訟)が下されました。この判決では、正社員と有期契約社員の賃金格差が不合理かどうかは、「両者の賃金総額を比較することのみではなく、当該各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」との考え方を明示した上で、一部の手当(この裁判では、精勤手当と算定の際に精勤手当の額が影響する超勤手当)に差があるのは「不合理」と判断し、それ以外の手当(住宅手当や家族手当等)については、「不合理ではない」として原告側の訴えを退けました。
この「不合理ではない」とした理由は、当該個社の個別具体的な事情として、定年再雇用者には定年まで各種手当等が支給されてきた経過や退職金の支給、老齢厚生年金の支給および支給開始までの調整手当の支払い状況等について、労働契約法第20条の「その他の事情」も加味したものとしています。
そのため、この判決は、定年後再雇用において、安易な賃金引き下げを広く認めたものではなく、「同一労働同一賃金ガイドライン案」に具体的な事例が示されていなかった「無期雇用フルタイム労働者と定年後の継続雇用の有期雇用労働者の間の賃金差」の考え方について、方向性が一定程度示されたものと言えます。
技能伝承など労使で協議を
改正高齢者雇用安定法の施行以降、それぞれの労使では、高齢者雇用の促進に向けた対応を行っていますが、今般の最高裁判決を踏まえ、あらためて、高齢者雇用の労働条件等の点検が重要になったと言えます。特に定年再雇用として継続雇用制度を導入したケースの場合は、定年前と再雇用後の労働条件が異なることが推察されることから、従事する業務内容や各種賃金・手当の趣旨、支給のあり方などについて、あらためて労使間で認識を合わせる必要があります。また、在籍する社員の年齢構成の把握とともに長年の経験を積んだ高齢者が、蓄積した技術・技能、知識・ノウハウなどを活用し、若年層に伝承していく環境整備も合わせて検討する必要があります。
誰もが希望すれば安心して働き続けられる仕組みづくりに向けて、労働組合は大きな役割を担っています。