特集2021.04

もっと労働組合 ─つくろう、入ろう、活用しよう─労働組合はなぜ大切なのか
社会に果たす三つの役割を知る

2021/04/14
日本社会では、社会的な組織への参加をためらう傾向は依然として強い。そうした中、労働組合という組織が存在する意味とは何か。労働組合が職場や社会で果たす役割から考える。
戎野 淑子 立正大学教授

ヨコのコミュニケーション

労働組合には三つの役割があると思います。

一つ目は、ヨコのコミュニケーションの構築。職場は、上司と部下、業務命令のようなタテのつながりだけでは成り立ちません。仕事には、同僚や他部署、他企業の人などとのヨコのつながりも大切です。例えば、自分のキャリアはどうなるのか、仕事の不安にどう向き合うのか。こうした情報はタテのコミュニケーションでは不十分で、ヨコのコミュニケーションから得られることが多いです。

こうしたヨコのコミュニケーションにとって、労働組合は非常に有益なツールです。コロナ禍で人との接触機会が減り、職場での日常のちょっとしたコミュニケーションも減っています。仕事は助け合いながら進めるものですが、そうした職場のつながりがコロナ禍で分断してしまうのではと心配しています。

最近では、「周りの人がどんな仕事をしているのかもわからない」というように、職場のタテのつながりはあっても、ヨコのつながりは薄いということは珍しくありません。その中で、悩みを抱え込んで孤立する人も少なくありません。

特にコロナ禍でテレワークが広がることで、従業員の孤立化が一層懸念されます。テレワークではタテのつながりはあっても、顔が見えずヨコのつながりがわかりづらい。

労働組合は、そんなときに支えになってくれる組織です。同じ職場で働いているからこそ、悩みを共有できる。同じ悩みを抱えている人がほかにもいるとわかるだけで安心できます。コロナで職場の分断が進む今こそ、労働組合が職場に横串を通すことが大切になっています。

労働者目線での発言

二つ目は、労働組合は、労働者目線で発言する組織であるということです。企業が従業員のことを考えていないわけではありませんが、企業はあくまで経済的な合理性や企業利益を追求する組織です。一方、労働者は、生身の人間であり、そこには生活があります。経済合理性だけではなく、働く人の視点で考える組織はやはり大切です。

労働者目線で情報発信することは組合員だけではなく、学生にとっても有益です。情報労連の取り組んでいる「明日知恵塾」(社会人と大学生の交流の場)に参加した学生は、働くことに対するイメージが変わったと話します。学生は普段、企業が発信する情報を受け取っています。そうした中、「明日知恵塾」で労働者目線の生の声を聞くと、企業で働く人たちは特別な存在ではなく、自分たちと同じように生活している人たちだと気付きます。そして、自分の就業人生を考えることができるようになったと言います。さらに就職後、そこで聞いた話の意味が改めて理解され、仕事にも生かされているようです。労働組合の活動が学生にも大きな影響を与えています。

各レベルに存在する組織

三つ目は、職場、企業、産業、地域、国という各レベルに組織が存在することです。職場で解決できない問題は企業全体で、企業で解決できない問題は産業で、というように労働組合は各レベルに存在し、連続した組織としてつながっています。こうした組織は他にありません。

国がどんなにいい制度をつくっても、その制度がそれぞれの職場に落とし込まれなければ意味がありません。それぞれのレベルで、情報を的確に伝え、実態に沿った運用を実現するのが労働組合です。「働き方改革関連法」やテレワーク、コロナ禍での支援策なども、企業だけ、あるいは労働者がバラバラに取り組んでも効果は小さく、労働組合が果たす役割は大きいと言えます。

生産性低下の背景

労働組合にはこうした重要な機能がありますが、現実には組織率が低迷しています。労働組合に限らず、社会的な組織への参加をためらう傾向があり、短期的な視点で自分のことを考える傾向が強まっていると感じています。

自分が社会的存在であると自覚しない人が増えれば、社会は行き詰まっていくのではないかと思います。例えば、職場の課題に対して無責任な人が増えれば、生産にも影響します。「自分の仕事じゃない」「誰かがやるだろう」「辞めるから関係ない」。そうした態度の従業員が増えれば、企業の生産性が落ちるのも当然です。労働組合の活動は、みんなで職場を良くしていこうという活動です。そうした活動が衰退すれば、生産性もそして賃金低下するのではないでしょうか。

主体性の発揮が大切

労働者を守るための仕組みは、自動的に機能しているわけではありません。そこには労働組合が大きな役割を果たしており、ヒト、モノ、お金も投じられています。労働者がそうした背景に無関心のまま、労働者保護の仕組みを単に与えられるものだと考えているとしたら、労働組合の活動に「タダ乗り」しており、仕組みは成り立たなくなります。

労働者に自分たちで課題を解決していこうという主体性がなければ、たとえ労働者代表制度のような仕組みができても、機能しないのではないかと思います。労働組合のように、自分たちで職場の問題を解決できる仕組みがあることを知ること。そして、そこに主体的に参加し、組織の中で一定の責任を引き受けながら行動する姿勢を育てることが、社会にとってもそして労働者一人ひとりにとっても大切だと思います。

コロナ禍の今こそ、労働組合の意義が多くの人に理解されるはずです。一人ではどうしていいかわからない問題も、相談し助け合いながらなら対応できます。そうした組合活動についてのメッセージを多くの人に届けてほしいと思います。

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