特集2021.04

もっと労働組合 ─つくろう、入ろう、活用しよう─「コミュニティ・オーガナイジング」を
労働組合活動に生かすには?

2021/04/14
仲間をつくり、仲間とともにアクションし、変化を巻き起こす「コミュニティ・オーガナイジング」。アメリカで体系化されたこの手法を労働組合活動にどう生かせるか。
鎌田 華乃子 特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン理事/
共同創設者

──コミュニティ・オーガナイジングとは何でしょうか。

簡単に言うと、「仲間をたくさんつくって、仲間とともに行動し、変化を起こすこと」です。

『スイミー』という絵本をご存じでしょうか。小さい魚たちが一緒になって、大きな魚を追い払うという物語です。それぞれの力は小さくても、一緒になることで大きな力を発揮できる。これがまさにコミュニティ・オーガナイジングです。

アメリカでは、その手法が学問として研究され、体系化されてきました。日本でもコミュニティ・オーガナイジングはありましたが、アメリカのように人種やルーツ、言語などもバラバラな人たちが集まる国では、人々の力を合わせるために、その手法を体系化する必要があったのだと思います。

──コミュニティ・オーガナイジングの手法とはどのようなものでしょうか。

体系化されたコミュニティ・オーガナイジングには、五つのステップがあります(図表を参照)。

(1)は、「ストーリーを語ること」です。例えば、自分がなぜ労働組合活動に参加したのか。そのストーリーを相手に語ることです。それがスタートです。

次の(2)で、活動のための関係性を構築します。強い活動のためには、関係性を構築していく必要があります。そうした関係をつくるために、どんな社会をつくりたいのかなど、大きな思いや価値観を共有することが重要です。1対1の対話を繰り返しながら関係性を構築していきます。

(3)は、目標を達成するためのチームづくりです。20人の大きなチームより5〜10人程度の方がチームは機能します。民主的で自治ができ、多様性のあるチーム、メンバー同士が相互依存するようなチームをつくっていきます。

(4)は、組合員の抱えている困りごとをヒアリングし、1年くらいで達成できそうなゴールを設定し、それに向かって組合員をはじめ多くの人と一緒にアクションを考えることです。設定したゴールを達成できると、自分たちには変える力があるという自己効力感がわいてきます。

そして、5つ目がアクションです。(4)の戦略をより多くの人と実行していくということです。

5つのステップについては、最近出版した著書『コミュニティ・オーガナイジング──ほしい未来をみんなで創る5つのステップ』でプロセスを詳しく紹介しているので、ぜひご覧になってください。

図表 コミュニティ・オーガナイジングの五つのステップ

    (1)ともに行動を起こすためのストーリーを語るパブリック・ナラティブ

    (2)活動の基礎となる人との強い関係をつくる関係構築

    (3)みんなの力が発揮できるようにするチーム構築

    (4)人々の持つものを創造的に生かして変化を起こす戦略づくり

    (5)たくさんの人と行動し、効果を測定するアクション

──それらのステップを日本の労働組合活動に当てはめるとどう見えますか?

労働組合の皆さんのお話を聞くと、活動がトップダウンになってしまっているケースも少なくないようです。

コミュニティ・オーガナイジングは、課題の当事者を大事にし、当事者の声を聞いて、当事者とともに行動してその困りごとの解決をめざす活動を重視します。その意味では、関係構築が大切です。組合員と対話して、困っていることを吸い上げていく活動が必要かもしれません。

また、運動を組織化する側も、ストーリーを語れるようになることも大切です。コミュニティ・オーガナイジングにおいて、ある課題を解決したいという人がいたら、その人がストーリーを語れるようになるまで、かなりトレーニングします。例えば、組合結成の核になる人がいたら、その人がその思いや価値観を語れるようにトレーニングしていく。さらには、組合結成をサポートする側であるオーガナイザーも自分の体験に基づくストーリーを語り、互いの経験を交換することで関係を構築していきます。

それができるようになったら、周囲の人たちに声を掛け、1対1のミーティングを通じて価値観を共有していくというプロセスを踏んでいきます。活動の核になる人やサポートする側の人へのトレーニングが大事です。

──労働組合がストーリーをうまく語れていない側面がありますね。

労働組合は、労働者の人権などに関して大切な訴えをしていますが、一般論になってしまいがちです。経験からストーリーを語る人が少ないことが、労働組合の活動が共感を呼びづらい一つの要因かもしれません。

組合役員を「指名されたから仕方なくやっている」という人もいるかもしれませんが、労働組合の活動にコミットしているからには、労働運動に対する思いが何かしらあるはずです。その原点を語り、その人の思いが伝わると、人間的なつながりが生まれるはずです。

コミュニティ・オーガナイジングの指導者であるマーシャル・ガンツ氏も、戦略だけでは人はついてこないという体験をしました。やはり重要なのは、関係構築です。パブリック・ナラティブにより人がつながり、ストーリーがあふれ出てくる運動はとても強い。ストーリーや価値観を共有する人間関係の土台があってこそ、運動は強くなります。

──戦略づくりのポイントは?

労働組合の力は、組合員がいるというだけでは発揮されません。その力を発揮するためには、加入する組合員がプラスアルファのアクションをとることが大切です。例えば、組合員全員が同時にはがきに意見を書いて送ったらすごいパワーになりますよね。

目標の立て方も、ぼやっとした大きな目標では、どのようなアクションをとるべきか伝わりません。小さな目標でもいいので、まずは実際の変化を呼び起こす行動をとれるとよいでしょう。同志の持つ力をいかに引き出すか。そうした視点で戦略を考えることがポイントです。

──労働組合にメッセージを。

労働組合は民主主義社会のためにとても大切な存在です。職場が参加型であるほど、自分は政策や政治に影響できるという自己効力感が高まります。1日の多くの時間を過ごす職場が民主的で、自分の声が反映されると感じられるなら、世界を信じることができます。

労働組合の活動は、コミュニティ・オーガナイジングそのものです。労働組合の皆さんと一緒に、コミュニティ・オーガナイジングを実践できれば、うれしいです。

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