特集2021.04

もっと労働組合 ─つくろう、入ろう、活用しよう─使用者との対等な交渉のために
労働組合法の基本をおさらいしよう

2021/04/14
労働組合のさまざまな権利を保障している労働組合法。労働組合運動の活性化のために、労働組合法を知り、活用していこう。
新村 響子 弁護士
日本労働弁護団事務局次長

対等な交渉の実現が大前提

労働組合法の目的は、労働者と使用者の対等な交渉を促進することにあります。労働組合法の第1条には、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」と書いてあります。労働組合法の大前提が、労使対等を実現することにあるというポイントをまず押さえておきたいと思います。

労働者一人では使用者と対等に交渉することは困難です。そこで労働組合法は、労働者が団体として使用者と交渉する権利などを保障しています。労働組合法がどのような目的のためにあるのかを知ることが大切です。

労働三権の強さ

労働組合法は、労働組合の権利として、団結権、団体交渉権、団体行動権の三つの権利を保障しています。

団結権は、労働組合をつくる権利です。

団体交渉権は、会社と交渉する権利です。使用者が労働組合からの団体交渉に応じなければいけなかったり、誠実に交渉しなければいけなかったりする義務は、団体交渉権に含まれます。また、労働協約締結権もここに含まれます。

団体行動権には、争議権と組合活動権があります。争議権とはいわゆるストライキ権のことですが、労働組合法は正当なストライキであれば、使用者から損害賠償を請求されたり、業務妨害で使用者から訴えられたりしない権利を定めています(民事免責、刑事免責の効果)。仮に、この権利の保障がなければ、労働者はストライキをしたら経営者から訴えられ、多額の費用を請求されてしまいます。争議権を行使できるのは、労働組合の力の強さの表れです。

組合活動権は、日常の組合活動を保障するための権利です。最近ではハラスメント被害をSNSで告発する事例も増えています。こうした場合、個人で告発するよりも、職場環境を改善するための労働組合活動として発信した方が、名誉毀損等で訴えられづらいということがあります。

労組法の活用方法

労働組合は労働組合法で定められた権利をどう活用できるでしょうか。例えば、使用者は労働組合から団体交渉を申し入れがあった場合、それを拒否することはできません(団体交渉応諾義務)。

使用者が応じなければいけない団体交渉の内容は、「組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」です。「労働条件その他の待遇」の代表的な項目は、賃金、労働時間、休息、安全衛生、教育訓練、人事制度、就業規則の変更など、とても幅広い項目が含まれています。

団体交渉は、ハラスメントの予防や再発防止にも活用できます。ハラスメント被害に対して会社が取る対処の有無やその内容は、従業員の就業環境に影響を及ぼす事項であるため、ハラスメントが義務的団体交渉事項に当たるとした労働委委員会の救済命令もあります。積極的に団体交渉の議題として取り扱っていくべきだと思います。

また、労働組合法は、使用者に対する誠実交渉義務を定めています。使用者は、労働組合の団体交渉の要求に対して、誠実に交渉しなければなりません。裁判例は、使用者の交渉姿勢について、相手方が理解し、納得することをめざして、誠意をもって団体交渉に当たらなければならないとしています。例えば、「賃上げ交渉で組合の求める経営実態を具体的に示す資料を提供しない」「単に利益が上がらないとの理由のみで資料を示さずゼロ回答」のような交渉態度は、不誠実団体交渉に当たります。また、「交渉権限がある者が出席しない」「文書交換による主張のやりとりに固執し、直接交渉に応じない」「交渉場所に遠方を指定する」というような交渉姿勢も不誠実団交になります。労働組合法にはこうしたルールがあると理解した上で、使用者に積極的な話し合いを呼び掛けると良いでしょう。

使用者がしてはいけない行為

労働組合法は第7条で、使用者がしてはいけない行為を定めています。それが不当労働行為です。

条文上は、四つの不当労働行為が挙げられています。

一つ目が、不利益取り扱いです。組合員であることや組合に加入しようとしたことを理由に解雇・懲戒などの不利益な取り扱いをすることを禁止しています。

二つ目が、団体交渉拒否です。先ほど述べた不誠実団交もここに含まれます。

三つ目が、支配介入です。支配介入の類型は、大きく分けて二つあり、一つは使用者が組合の結成や運営に介入してくること。組合役員の選挙への介入や分裂・脱退工作、「第二組合の結成」などがこれに当たります。ほかにも、「労働組合はきらいだ」「組合なんか入らなくてもいい」というような反組合的な発言も支配介入に当たります。そうした発言があった場合は、録音しておくと良いでしょう。もう一つは、経費援助です。ただし、就業時間内の活動、福利厚生寄付、事務所供与などは経費援助に当たりません。

四つ目は、労働委員会の申し立てを理由とした不利益取り扱いです。

使用者からこうした行為を受けた場合、労働組合としては不当労働行為であることをしっかりと指摘し、行為の是正を求めていきましょう。

救済機関としての労働委員会

それでも使用者が不当労働行為をやめない、話し合いに応じない場合などには労働委員会を活用します。労働組合法は、労働者が団結することを擁護し、労働関係の公正な調整を図るための機関として、労働委員会を設置しています。

労働委員会は、労働組合の申し立てに対して、救済命令を出すだけではなく、労使の建設的な話し合いを促進するためにも活用できます。救済命令の申し立てだけではなく、「あっせん」という機能もあります。

労働委員会は、労使の対立を深めるためではなく、労使紛争をどう解決するかという視点で、公益・使用者・労働者のそれぞれの委員が紛争解決の役割を果たします。その機能の一つとして、審査期間中の不当労働行為を止めるために、労働委員会が実効確保措置の勧告や要望を行うこともあります。労働組合は労働委員会を積極的に活用すべきだと思います。

使用者が、労働委員会の救済命令に違反した場合50万円以下の過料が科せられます。また、労働委員会の救済命令が出た場合、企業の社会的なイメージ低下は避けられません。労働委員会の機能を使用者に説明することも重要です。

労組法のさらなる活用を

ただでさえ「組合離れ」が進む中で、非正規雇用で働く若者や女性にとって、労働組合は自分たちとは関係のないものと考える人も多いかもしれません。

しかし、権利が侵害されている人ほど労働組合の力を活用してほしいと思います。立場の弱い非正規雇用労働者が労働組合を結成し、活動を続けることに難しい面があることは間違いありません。その一方、私が知る限りでも、非正規雇用労働者が連帯して組合を組織し、セクシュアルハラスメントを防止するための協約を締結した労働組合もあります。諦めずに労働組合を活用してほしいと思います。

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