もっと労働組合 ─つくろう、入ろう、活用しよう─Black Lives Matterから学ぶ
人々が「パワー」をつかむ方法
日本労働弁護団常任幹事
草の根から生まれたハッシュタグ
本を訳すに当たっては、アメリカの歴史を学ぶ必要がありました。BLMの運動は、アメリカにおける黒人の歴史と切っても切り離せません。南北戦争、奴隷解放後にも続いた人種隔離政策や、1990年代の「麻薬戦争」における黒人の犯罪者化と投票権の剝奪。BLMの背景には、人種差別の長い歴史があります。
1970年代以降、アメリカ社会では保守派と新自由主義派が巻き返しを図り、勝利を収めます。そこには、右派の草の根の組織活動がありました。
一方、1980年代以降、革新系も草の根運動を展開します。1981年生まれのガーザさんは、大学入学後、住民組織での活動をはじめ、大学卒業後にオーガナイザーを職業にします。その中で彼女は、組織化のノウハウ、対話の方法、団体間の連携などのスキルを身に付け、最終的には多数派になり、意思決定を持つ力、「パワー」を握る方法を学びます。
アメリカには、各地にこうした住民組織や団体があり、ガーザさんのようなキャリアを持つ人がたくさん生まれています。こうした環境が、BLMの背景にあります。ハッシュタグが突然生まれたのではなく、背景には草の根の活動がある。その点を日本の私たちは知る必要があると思います。
差別の交差性を意識した運動
この本のもう一つの柱は、新しい社会運動のあり方を提示していることです。これまでの黒人運動は、公民権運動をはじめ、男性の宗教指導者がリーダーになることがほとんどでした。その中で、女性の地位が軽んじられることが少なくありませんでした。ガーザさんは、そうした運動のあり方は、自分たちの世代が克服しないといけないとして、BLMでは新しい運動を追求しました。
例えば、黒人運動といっても黒人男性と黒人女性では経験が異なるし、女性運動といっても白人女性と黒人女性では経験が異なります。そのように運動の中にも、複数の立場があり、抑圧が生じます。BLMは、こうした差別の交差性(インターセクショナリティ)を明確に意識した運動であり、それがこれまでの社会運動とは異なる新しい特徴の一つだと感じています。
アメリカの社会運動が元気になっている秘訣がそこにあると思っています。マジョリティーがマイノリティーを支援し、力づける。そのことで、マイノリティーから元気になり、最終的にマジョリティーも元気になる。その順番は日本でも変わらないと思います。日本でも技能実習生などマイノリティーの人たちの支援をすることから、運動が活性化していくのではないかと思います。
パワーをつかむためにタグ
ガーザさんは、運動のリーダーがメディアに露出することがいつの間にか自己目的化し、地道な運動を軽視したり、成果を横取りしたりする現象が運動をゆがめてきたと批判しています。そのため、オーガナイザーは支援する立場に徹することが大切だと訴えています。
また、アメリカの社会運動は、最終的に勝つこと、「パワー」を得ることにこだわります。「パワー」をつかむために、どうしたら勝てるかを徹底的に分析し、個別訪問などの活動を地道に粘り強く展開します。こうした営みを見ていると、選挙なども「勝つべくして勝った」と感じます。
一方、日本の社会運動の場合、最終的に勝つということをあいまいにしているケースがほとんどではないでしょうか。負けると思って計画を立てるような運動のあり方を本気で変えていかないといけません。そのためにはまず、小さな成果でもいいので、実績を積み重ねること。BLMなどの運動がどうやって成果を積み重ねてきたのか、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。